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China Matters

米中貿易摩擦と中国技術輸出入管理条例の改正-その内容と実務上の留意点

March 20, 2019

By Paul Hastings Professional

中国では2019年3月15日付で「外商投資法」が可決され、来年から施行される予定となっている。同法には、「技術協力の条件は、投資の各当事者が公平の原則にのっとり、平等に協議を行うことにより取り決められる」ことが定められている[1]。この外商投資法の規定と足並みを揃える立法作業の一環として、2019年3月18日に「技術輸出入管理条例」が改正された。

2002年から施行されていた旧「技術輸出入管理条例」(以下「旧条例」という)には、契約自由の精神を軽視してでも、ライセンシーである中国企業の利益を一方的に保護し、ライセンサーである外国企業を差別扱いしていると批判されてきた条文がいくつか含まれていた。米国やEU等は旧条例がTRIPS協定の内国民待遇等に違反するとして、中国をWTOに提訴をした[2]。さらに、米国通商代表部による通商法301条調査報告書において、内外差別的な技術輸出入管理規制によりライセンス契約における特定条項の強制等が指摘され、現在の米中貿易協議においても、中国が外国企業から技術移転を強要していると問題提起されていた。

今回、中国が異例の速さで成立にこぎつけた「外商投資法」や「技術輸出入管理条例」の改正は、米中貿易協議の対応策として取られたと見られており、中国との技術取引実務に大きな影響を与えるものである。

今回の改正は中国への技術輸入に関して外国企業に内国民待遇を与えるという意味で画期的なことであるが、これにより外国ライセンサーがライセンス契約において自由に条件を課していいかというと、そうではない。本稿は「技術輸出入管理条例」の改正を分析し、新管理条例後の時代において、ライセンス契約締結に当たり実務上の留意点をまとめるものである。

一、改正要点

今回の改正により、旧条例における下記の規定が削除された。

第24条第3項:技術輸入契約の受入側が供与側の供与した技術を契約の定めに従って使用し、第三者の合法的権益を侵害した場合、供与側が責任を負う。

第27条:技術輸入契約の有効期間内において改良技術は改良した側に帰属する。

第29条:技術輸入契約には、下記の制限条件を課してはならない。

  1. 不可欠ではない技術、原材料、製品、設備又は役務の購入を含む、技術輸入に不可欠ではない付帯条件を受入側に求めること

  2. 特許権の有効期間が満了し又は特許権が無効宣告された技術について許諾使用料の支払い又は関連義務の履行を受入側に求めること

  3. 受入側が供与側の供与した技術を改良することを制限し、又は受入側がその改良した技術の使用を制限すること

  4. 受入側にその他の供給先から供与側が供与した技術と類似、又は競合する技術の取得を制限すること

  5. 受入側に原材料、部品、製品又は設備の購入ルート又は供給先を不合理に制限すること

  6. 受入側に製品の生産高、種類又は販売価格を不合理に制限すること

  7. 受入側が輸入した技術を利用し、生産した製品の輸出ルートを不合理に制限すること

これまで技術供与側としての外国企業は上記の旧条例の規定に大いに悩まされてきた[3]。特に改良技術の帰属に関する旧条例第27条で技術供与を断念した外国企業もしばしばみられた。それは、ライセンシーがささやかな改良を施し、その改良された部分とライセンス技術が不可分である場合、ライセンス技術を含む改良技術がすべてライセンシーに帰属してしまうことを危惧したからに他ならない。

実務上、旧条例第27条の適用を迂回するために、子会社によるサブライセンス、及びwork-for-hire(委託開発)がたびたび利用されていた。子会社によるサブライセンスというのは、外国企業がまず中国におけるその子会社に技術の再実施権付の実施許諾を付与し、その子会社が中国受入側企業とサブライセンス契約を結ぶことである。その場合、サブライセンサーである中国子会社とサブライセンシーである受入側は国内企業同士であるため、技術輸出入管理条例の適用を受けず、改良技術の帰属について、契約法に基づきより自由に決められることになる。work-for-hire(委託開発)は、中国に子会社を持たない外国企業がよく利用するスキームで、すべての改良はライセンサーの委託により、ライセンサーの指揮命令の元で行われ、改良技術は一定の対価でライセンサーに帰属するということである。ただし、これらの迂回策は、紛争が生じる場合、裁判所によって強行法規に違反するとして無効されるリスクは常にあった。

二、改正の影響及び実務上の留意点

今回の改正により、外国ライセンサーと中国ライセンシーは契約自由の原則に基づき、技術輸入についてより自由に条件を交渉し、取り決めることができるようになる。技術供与側が外国企業であるだけで、内国企業同士間の技術取引より不利な条件を課されるようなことは一応なくなる。

かといって、ライセンサーはライセンス契約においてどのような条件をも課せるわけではない。クロスボーダーであるか否かを問わず、技術取引全般に適用する「契約法」や「独占禁止法」及びその関連法規には、技術独占を禁じる規定が置かれているので、ライセンス契約を締結する際に、これらの規定を念頭に置く必要がある。

第三者権益への侵害責任

旧条例第24条第3項の削除により、ライセンサーはライセンシーによる技術の使用による第三者の権益への侵害責任について、「契約法」第353条が適用され、基本的に当事者間の合意に委ねられる。従って、ライセンス契約において、第三者権益への侵害責任を負わないとの規定を入れることが可能となった。ただし、ライセンサーは自らその供与する技術の合法的な所有者もしくは許諾する権利を有するものであることを保証し、ライセンシーが第三者から権利侵害の訴訟を提起された場合、ライセンシーに協力する義務がある[4]

改良技術の帰属

旧条例第27条の削除により、「契約法」第354条が適用され、すなわち、改良技術の帰属は、互恵原則に基づき当事者自治に委ねられる。契約で定めがない又は定めが不明確で、別途合意もできず、契約の関連条項又は取引慣行からも不明確である場合のみ、改良をした当事者に帰属する。

ここでは、互恵原則がキーワードであり、ライセンシーの改良研究そのものもしくは改良した技術の使用を制限し、または、改良技術の権利を無償にライセンサー譲渡する義務(アサインバック)又は無償に改良技術の実施をライセンサーに許諾する義務(グラントバック)をライセンシーに課すなど取引条件が互恵且つ公平ではないと判断された場合[5]、技術の進歩を妨げる契約として無効にされるおそれがある[6]。技術契約が無効とされた後、改良技術の帰属につき当事者間が合意できない場合、裁判所は改良をした当事者に帰属するとの判断を下すことができる[7]。従って、ライセンス契約の締結にあたり、改良技術に関する規定を慎重に検討し、ドラフトする必要があるだろう。

技術契約における制限条件

技術契約における制限条件については、「契約法」第329条及び「技術契約紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」(以下「技術契約解釈」という)第10条が適用される。「契約法」第329条には、違法に技術を独占し、技術の進歩を妨げ又は第三者の技術成果を侵害する技術契約は無効とするという大原則があり、技術契約解釈第10条には、具体的に技術の違法独占及び技術進歩の妨げに該当するものが以下のように挙げられている。

  1. 当事者の一方が契約技術を元に新しい研究開発を行うことを制限し、またはその改良した技術を使用することを制限し、または双方の改良技術の交換条件が平等でないこと。これには当事者の一方にその者が自ら改良した技術を相手側に無償で提供し、互恵原則によらずに相手側に譲渡し、当該が改良技術の知的財産権を無償で独占又は共有させるよう要求することを含む。

  2. 当事者の一方が第三者から類似する技術又はそれと競争関係にある技術の取得を制限すること。

  3. 当事者の一方が市場のニーズに基づき、合理的な方法によって契約技術を十分に実施することを妨げること。これには受入側が契約技術を実施して生産する製品又は提供するサービスの数量、種類、価格、販売ルート及び輸出先を明らかに不合理に制限することを含む。

  4. 受入側に、技術の実施に不可欠ではない付帯条件を受け入れるよう要求すること。これには必要ではない技術、原材料、製品、設備、サービスの購入及び不必要な人員の受け入れを含む。

  5. 受入側の原材料、部品、製品又は設備等の購入ルート又は購入先を不合理に制限すること。

  6. 受入側が契約技術の知的財産権の有効性について異議申し立てを禁止する又は異議申し立てに条件を付けること。

これらの該当事項は基本的に旧条例第29条に列挙されていた制限事項と同じであるが、「技術の独占、技術進歩の妨げ」という大前提があるので、裁判所が判断する際に、これらの制限条件を旧条例第29条のようにすべて当然違法にするのではなく、競争法の視点からケース・バイ・ケースの分析・判断が一応期待できると言えよう。半面、実務がどう運営されるかのついては今後注目しなければならない。

さらに、「独占禁止法」及び「知的財産権の濫用による競争の排除又は制限行為の禁止に関する規定」においても、支配的地位を有する事業者がその知的財産権を濫用し、競争を排除・制限する行為に関する規定が置かれている。特に支配的地位を有するライセンサーがライセンシーに対して、その改良技術の独占的なグラントバック、知的財産権の有効性について異議を申し立てないという不争義務、ライセンス期間満了後において競合商品又は技術の利用の制限、権利期間が満了又は無効認定を受けた知的財産権について権利行使、第三者との取引の禁止等の不合理な制限条件を課してはならない[8]

外国ライセンサーは、ライセンス契約を交渉する際に、上記に照らし、課していい制限条件と無効とされるおそれのある条件を競争法の観点からの検討が不可欠である。

三、結論

これまでライセンシーとしての自国企業を保護するという目的で制定・実施されてきたいくつかの法規定が削除されることにより、クロスボーダーの技術移転契約が国内企業同士間のそれと同じ土俵で、競争法を含む視点からその契約条件を分析・判断されるという意味で、精神論としては立法レベルにおいて日米並みになりつつあり、大きな前進であると評価できる。実際に紛争が生じる場合、裁判所は果たして当事者自治を尊重し、競争法の角度から判断を下すことができるかについては今後の法執行の動向を見守る必要がある。とりわけ、この改正により当然に外国企業に対するバイアスが除去されたかは今後の運用次第ということになる。また、中国に技術輸出をしようとする日本企業にとって、ライセンス契約の交渉・ドラフト段階において、中国の現行法規における関連規定を理解し、専門家による競争法視点からのアドバイスを受けることが必要である。


[1] 「外商投資法」第22条

[2]  DS542, https://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/cases_e/ds542_e.htmを参照。DS549, https://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/cases_e/ds549_e.htmを参照。

[3]「技術輸出入管理条例」は強行法規であるため、当事者間で外国法を準拠法、外国仲裁を紛争解決方法として選択した場合においても、中国の裁判所において外国仲裁判断の執行を申請する際に、中国の強行法規に違反し、公序良俗に反するという理由で、執行が拒否されるリスクがある。従って、「技術輸出入管理条例」における規定は避けて通れないものであると言われていた。

[4]  「技術輸出入管理条例」第24条

[5]  「技術契約紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」第10条第1項

[6]  「契約法」第329条

[7]  「技術契約紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」第11条第2項

[8]  「知的財産権の濫用による競争の排除又は制限行為の禁止に関する規定」第10条


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