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クライアントアラート

最高裁判所、非正規労働者の均衡待遇について複数判決―売却表明保証に問題を提起

November 24, 2020

By 新井敏之

はじめに:

10月、最高裁判所は非正規雇用労働者(例:パートタイム労働者、有期雇用労働者)の均衡取り扱いに関する5つの類似の事案について判決した。争点は、退職金、夏季冬季の賞与、年次有給休暇、年末年始の割増賃金、有休の傷病休暇などである。

法的枠組み:

ルール:使用者は次の要素に照らし、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で、給与や賞与を含め待遇に関して不合理な不均衡を設けてはならない:(a)労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度;(b)職務の範囲及び、使用者が一方的に配置変更を命じられるか;および(c)その他特別な事情。待遇の不均衡の適法性は、その不均衡の性質や目的によって判断される。パートタイム・有期雇用労働法8条。

この点に関連して一般的な原則として、厚生労働省により同一労働同一賃金ガイドライン(法的拘束力はない)が2018年末に公示され、本年初めに実施されている。

各ケースで請求の根拠となった労働契約法20条は、パートタイム法8条と実質的に類似している;前者が2020年4月に廃止されたことで、パートタイム法8条の規定は同じ問題の解決を引き継いだと考えられる。よって、最高裁の判決は、引き続きこの問題について先例価値を有する。

判示の要旨:

  1. 各判示は当該事案の事実関係についてなされたもので、一般化はできない。

  2. メトロコマース事件:

  3. 退職金の受給資格についての不均衡は合理的

  4. 大阪医科薬科大学事件:

  5. 賞与の受給資格についての不均衡は合理的

  6. 有給の傷病休暇の付与についての不均衡は合理的

  7. 日本郵政事件:

  8. 夏季冬季休暇の付与についての不均衡は不合理

  9. 年末年始勤務手当の付与についての不均衡は不合理

  10. 有給の傷病休暇の付与についての不均衡は不合理

判決理由の要旨:

メトロコマース事件では、裁判所は(a)退職金は、優良な長期雇用労働者の採用と定着を促進することを目的とし、(b)従業員と非正規従業員では職務内容が異なること、(c)正規従業員は異動の対象となるが、非正規従業員は対象とならないこと、などを指摘した。

大阪医科薬科大学事件においても、裁判所は、上記と同様の理由を指摘した。有給傷病休暇の問題については、裁判所は、かかる休職制度は長期雇用の確保を目的とするものであるとし、裁判所の認定した具体的事情の下では、原告である非正規雇用労働者は当該制度の保護を受けないことは不合理でないとした。

日本郵政事件では、裁判所は一般論としては、両者の間に(a)昇格の可能性の有無、(b)使用者からの一方的な異動命令の有無、(c)職務責任の広狭等の職務上の違いを認定した。但しこのような相違点に照らしても、裁判所は、次のように指摘して、争点となる不均衡の維持は不合理であると判断した。

  1. 季節休暇の方針は、2つの類型の従業員に等しく適用されるべきである。なぜなら、一年のうちの特定の季節に仕事から離れ息抜きする必要性は、類型の区別なく認められるためである。

  2. 年末年始の割増賃金については、繁忙期に出席した従業員を慰労するという趣旨で、正規、非正規に拘わりなく適用されるべきである。

  3. 有給の傷病休暇については、正社員・非正規労働者の二類型に関係なく、従業員を継続的に維持できるための方針を示したものである。 本件の非正規労働者は、会社に長く継続して勤務しており、この方針は平等に適用されるべきである。

結論:

  1. 最初の二つの判例における退職金や賞与などのより重要な項目に関しては、裁判所は、正規労働者だけに動機づけを与えようという市場のあり方に配慮を見せた。

  2. 日本郵政事件で争点とされたよりコストの低い項目については、非正規社員にも平等に適用される方針が看取できる限り、裁判所は差異を放置することに批判的であった。

  3. 同一労働同一賃金という目標に照らすと、これらの結論は流動的である。 退職金や賞与については、状況が違えば裁判所の見解が変わることもあり得る。 ただ裁判所は現時点でも「(正規社員に)優良人材を採用・維持する必要性」の議論には同調している。

  4. 比較のためにする従業員類型の特定は、差別を主張する従業員が行う。

  5. これらの判例は、企業買収、マイノリティ株式取得、その他の企業への投資に関するデューデリジェンスと表明保証実務でデリケートな問題を提起する。売主は、今回の判決における流動性を踏まえて、すべての労働法規を遵守していることを表明・保証することに抵抗を示すと考えられる。 一方で、投資する当事者にとって退職金や賞与の負担は非常に大きくなる可能性が高く、表明保証を得ないことは危険である

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