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中国版「外国法令域外適用ブロッキング規則」の発効 ―日本企業に対する影響を探る

February 10, 2021

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新井 敏之.李可斐

中国は、米国の輸出規制や経済制裁法の「濫用」への対抗措置として、昨年成立された「信頼できない法主体リストに関する規定」[1]や「輸出管理法」に加え、今年1月9日商務部が「外国の法律及び措置の不当な域外適用を阻止する規則」(以下「域外適用阻止規則」という。)を公布し、即日施行された。[2]この域外適用阻止規則は、内容的にEUの「外国法令域外適用ブロッキング規則」[3]と類似するところが多く、主な目的は、米国などの外国の輸出規制や経済制裁法等の域外適用を阻止するところにある。本稿は「域外適用阻止規則」の概要を紹介し、中国と取引のある日本企業に対する影響について検討する。

  1. 域外適用阻止規則の適用範囲

外国の法律及び措置の域外適用により、中国の国民、法人あるいはその他組織(以下「中国の法主体」という。)が行う、第三国や地域及びその国民、法人あるいはその他組織(以下「第三国の法主体」という。)との間の正常な取引が、不当に禁止または制限されると評価される場合に、本件域外適用阻止規則は適用される。[4]

  1. 不当な域外適用を阻止するメカニズム
    1. 外国企業の中国現地子会社等を含む中国の法主体を対象にするメカニズム

  1. 中国の法主体は、第三国の法主体との取引が外国の法律や措置により制限又は禁止される場合、それを了知してから30日以内に商務部に報告しなければならない。[5]
  2. 商務部をはじめとする関連官庁は、当該外国の法律や措置が、①国際法や国際関係の基準準則に違反しているか否か、②中国国家主権、安全及び発展利益に及ぼす影響、③中国の法主体の権利や利益に及ぼす影響、及びその他の要素を総合考慮したうえ、当該外国の法律や措置が不当な域外適用に当たるかを判断する。[6]
  3. 外国の法律や措置が不当な域外適用にあたると判断された場合、商務部は当該外国の法律や措置の承認、執行及び遵守を禁止する命令(以下「禁止令」という)を発出ことができる。[7]禁止令は原則としてすべての中国の法主体に適用され、禁止令に記載されている外国の法律や措置の中国の法主体への適用は阻止され、中国の法主体は外国の法律や措置を遵守することにより、かかる取引を阻害してはならない。
  4. ただし、中国の法主体は、禁止令の自社への適用免除を商務部に申請することができる。[8]これは、外国の法律や措置に違反する場合、重大な不利益を被る惧れのある中国の法主体に用意される適用免除制度である。適用免除が承認された場合、当該中国の法主体は、商務部の禁止令にかかわらず、外国の法律や措置に従い、関連取引を中止することができる。
  5. 中国の法主体は適用免除の承認なく禁止令に違反し、取引を一方的に中止する場合、行政罰が科されるほか、取引相手に損害を与える場合には民事責任も負う。[9]
    1. 日本企業などの外国企業を対象にした場合のメカニズム

「域外適用阻止規則」の規定は、文字通りに読めば、中国の法主体のみに適用されるという印象を与えるが、その趣旨や目的に鑑み、日本企業などの外国企業にも影響が及ぶと考えられ、①外国の法律や措置(例えば米国の輸出管理規制[10]や経済制裁法/措置)に従うか、それとも②中国商務部の禁止令に従うかという二者択一の「踏み絵」を迫られる場面が出てくると想定される。

設例:

中国企業A社とロシア企業B社とは取引関係がある。米国OFAC(財務省外国資産管理室)はB社に対して二次的制裁[11]を含む経済制裁措置を発動した。A社はB社との取引を継続した結果、自社もSDNリスト[12]に掲載された。日本企業C社はA社と長年にわたって様々な取引している。かかる取引の一部はA社にとって経営上不可欠である。C社は、A社のSDNリストへの掲載を受け、A社との取引を継続すれば、自分も米国OFAC規制に違反し制裁されることを危惧して、A社との一切の取引を中止する方向で調整中である。一方、A社はかかる事実関係を商務部に報告した。商務部は、米国の当該制裁措置は不当な域外適用であるとして、同制裁措置の遵守を禁じる禁止令を出した。商務部の禁止令は外国会社であるC社にどのような影響を与えるか。

「域外適用阻止規則」第5条にある報告義務、第8条にある適用免除の申請制度、及び第13条にある禁止令の遵守義務などの対象者は「中国の国民、法人あるいはその他組織」と明記されているため、日本企業C社への適用はないと考えがちである。しかし、同規則の第9条は下記のように規定している。

当事者が禁止令の対象である外国の法律や措置を遵守して、中国の国民、法人あるいはその他組織の合法的な権益を侵害した場合、中国の国民、法人あるいはその他組織は法に基づいて、人民法院に訴訟を提起し、当事者に損害賠償を請求することが出来る。但し、当事者が本規則の第八条の規定に従って適用免除を取得している場合を除く。

禁止令の対象である外国の法律に基づき下された判決・裁定が中国の国民、法人あるいはその他組織に損害をもたらした場合、中国の国民、法人あるいはその他組織は法に基づいて、人民法院に訴訟を提起し、かかる判決・裁定により利益を得た当事者に損害賠償を請求することが出来る。

ここでいう「当事者」は何を意味するかについて明確にされていない。同規則にある他の条文は、中国の法主体に限定する場合、「中国の国民、法人あるいはその他の組織」という表現を使用しているが、ここであえて「当事者」という漠然とした用語を区別して使うのは、外国当事者も第9条の射程距離に入っていることを示唆し、牽制しているためではないかと推測される。

そもそも「域外適用阻止規則」の立法趣旨は、外国の法律や措置の域外適用が、中国の法主体と第三国の法主体との間の取引を不当に妨害する場合に、外国の法律や措置の域外適用を阻止し、中国の法主体の利益を守る点にある。設例にあるように、A社の重要な取引相手である日本企業C社を射程距離に含めなければ、同規則の意図する効果は限定されることは容易に想像できる。[13]

よって、商務部の禁止令は外国企業に直接に適用されないものの(外国企業による禁止令の遵守義務や適用免除の申請制度は設定されていないため)、外国企業が禁止令の対象である外国の法律や措置に従い中国の法主体との取引を中止した場合には、損害賠償責任は生じるという奇妙な権利義務関係となっている。従って、設例にあるC社がA社との取引を一方的に中止した場合、A社は中国裁判所でC社に対して訴訟を提起し、損害賠償を請求することは可能であると思われる。ただし、A社とC社との間の取引契約における約定を全く無視して、直ちに中国の裁判所でC社に対して提訴し、損害賠償を請求できるかについては、いくつかの前提問題を検討する必要がある。

      1. 取引の中止・解除が契約上許される場合

多国籍企業、特に米国原産品や技術が含まれる製品の取引をしている企業は、クロースボーダー取引契約に、相手側による米国輸出管理規制への不遵守や経済制裁法/制裁措置の対象となることを自社の契約不履行の免責事由や契約解除事由として規定することが一般的である。本来ならば、不履行の免責事由や契約解除事由(すなわちA社が米国制裁対象となったこと)が発生する場合、C社は契約の履行を中止しても責任を負わず、又は契約を解除しても債務不履行とはならない。したがってA社の損害賠償請求が支持されるためには、かかる契約上の保護規定が無効であるという法理が必要である。

中国契約法では契約無効の原因として、①法律、行政法規の強行規定への違反、及び②公共の利益を損うこと、などを挙げている。[14]①「域外適用阻止規則」は部門規章(日本の省令に類似する)であり、中国法上、法律や行政法規[15]ではないので、かかる規則又はそれに基づき発令された禁止令への違反を構成するだけで、一律に違反する契約は無効とならないと考えられている。そうなると次の判断は、②商務部の禁止令があるにもかかわらず、外国の法律や措置に従いA社との取引を中止することが公共の利益を損うかの点についてである。裁判所が当該外国の法律や措置の域外適用が「中国国家主権、安全及び発展利益」を侵害すると判断すれば、公共の利益が損なわれるという結論に至る可能性は高い。従って、不履行の免責や解除権などの契約条文は無効とされ、かかる条文に基づき履行を中止または契約を解除する場合、損害賠償責任が生じるという判断になる可能性は大いに存在する。

      1. 契約における紛争解決条項

当事者間の取引契約書における準拠法や紛争解決条項が、中国法による、中国の裁判所による裁判と規定されている場合は、A社がそれに基づき管轄権のある中国の裁判所にてC社を提訴しても問題ない。しかし準拠法が外国法で、紛争解決は外国裁判、または外国仲裁となっている場合(かかる契約の方が圧倒的に多いといえる)、A社はこれらの合意を無視して中国裁判所で提訴することができるものであろうか。

ほとんどの渉外契約において、当事者は管轄と紛争解決方法に合意することができるというのは、中国民事訴訟法の原則である。「域外適用阻止規則」第9条があるからといって、中国の裁判所は、当事者間の合意管轄を無視し、A社のC社への提訴を受理することはできないと思われる。そうすると、A社はまず契約に基づき、外国の裁判所や仲裁機構で訴訟又は仲裁を提起し、負けた場合、第9条第2項に基づき、中国の裁判所にさらに提訴し、C社に損害賠償を請求するということになるのであろうか。[16] いずれにせよ、A社がC社の責任追及をすることに実際上ハードルがある。しかし、C勝訴の外国判決や仲裁判断を中国で執行する際の抗弁として、第9条が作用することになれば、かかる外国判決や仲裁判断はその限りで画餅に帰する。いずれにせよ、状況は依然不透明である。

  1. まとめ
  1. 日本企業の中国子会社や関連会社は「域外適用阻止規則」の適用を受け、第5条に定める報告義務のほか、商務部が禁止令を発令する場合、それを遵守する義務がある。禁止令を遵守することにより、外国の法律や措置に違反し、制裁されるなど重大な不利益を被る恐れがある場合、商務部に当該禁止令の適用免除を申請することができる。適用免除が承認されれば、外国の法律や措置に従うことが許される。
  2. 日本企業自身にとっては、禁止令の直接の適用はないものの、設例にあるように、禁止令の対象である外国の法律や措置に従い、契約の定めに基づき中国の取引相手との取引を中止・解除する場合において、当該取引相手から中国裁判所で損害賠償の訴訟を提起されるリスクがある。取引相手による外国輸出管理規制や経済制裁法への不遵守から生じるリスクを回避するために契約上規定される、①不履行の免責や契約解除権条項、②輸出管理や経済制裁法の遵守義務、及び③不遵守による補償の条項[17]、並びに④準拠法や紛争解決などの条項は、「域外適用阻止規則」第9条における損害賠償の請求に関する規定により、効果が制限されてしまう可能性がある。
  3. また、中国現地子会社や関連会社を経由して第三者に米国原産品や技術を含有する製品を提供する場合、親会社として米国の輸出管理規制や経済制裁法に従わざるを得ないが、中国子会社や関連会社は中国商務部の禁止令の対象となる米国輸出管理規制や経済制裁法に従ってはならないといったような場面も出てくる。米中両国の板挟みとなる多国籍企業は、グループ会社間で輸出管理・経済制裁法に関するコンプライアンスプログラムを立案する際に、特にこのような「法の衝突」に留意し、今までの輸出管理・制裁法コンプライアンスの考え方を調整する必要が出てくる。
  4. 現状では、米国の輸出管理や経済制裁法の違反リスクを回避し、規制の要件を十分吟味せずに、制裁を受ける企業との取引を一切排除するというような過剰な反応をしてしまう多国籍企業も少なくない。中国が信頼できないエンティティリスト制度や域外適用阻止規則をもって、米国法律の域外適用に強く対抗しようとしている中、このような過剰コンプライアンスではこれからは硬直的に過ぎる余地がある。なぜなら、このようなやり方により、自社が中国政府に制裁されるか、取引相手の中国企業への損害賠償責任が生じてしまうリスクが生じるからである。そこで、多国籍企業は、「域外適用阻止規則」の解釈や運用に注目するとともに、米国その他の輸出管理や経済制裁法を要件・効果の面からよく分析・理解することが大切である。取引相手がエンティティリストやSDNリストに掲載されても、すべての取引を直ちに取りやめなければならないというわけではなく、取引の対象や内容、及び適用される輸出管理規制や経済制裁措置の具体的な内容によりコンプライアンス上リスクの高い取引とそうでないものがある。中国法上のリスクを軽減するために、米国の輸出管理や経済制裁法上リスクが低い取引は、検討の上継続することは一つの対策となると思われる。但し、これは優れて専門的な判断であることは間違いない。
  5. 「域外適用阻止規則」は不明確な部分が多く、運用予測可能性に欠けているものの、外国企業からすでに注目を集め、それなりの抑止力になっているといえよう。一方、当該規則の運用は、中国におけるビジネスリスクとして捉えられ、米国への依存度の高い第三国企業は中国と米国との間で板挟みされ窮地に立たされる局面があり、中国企業との取引を躊躇してしまうこともあり得る(萎縮的効果)。この意味で、当該規則は中国にとっても両刃の剣となる。その観点から中国政府は実際の運用においては比較的穏健なアプローチを取るのではないかという見方もある。いずれにしても、当該規則は、中国でビジネスをする多国籍企業にとって様々な面において影響を与えるもので、かかる規則に対する解釈や実務上の運用等に注意を払ったうえで、それらを比較考量して対応を決すべきすぐれて実務的な問題である。

以上

 

[1]   「信頼できない法主体リストに関する規定」に関する検討は、当職らによる2020年10月27日付のクライアントアラート「『目には目を』の米国以外の多国籍企業への射程距離―中国型ブラックリストの法的枠組みとその影響」をご参照。

[2]   商務部令2021年第1号、中国語では「阻断外国法律与措施不当域外适用办法」という。

[3]  Council Regulation (EC) No 2271/96 of 22 November 1996 protecting against the effects of the extra-territorial application of legislation adopted by a third country, and actions based thereon or resulting therefrom.

[4]  「域外適用阻止規則」第2条。

[5]   「域外適用阻止規則」第5条。

[6]  「域外適用阻止規則」第6条。

[7]  「域外適用阻止規則」第7条。

[8] 「域外適用阻止規則」第8条。

[9]  「域外適用阻止規則」第9条及び第13条。

[10]   米国の輸出規制は、米国原産品・技術の米国からの「輸出」のみならず、米国からある国に輸出された貨物や技術がさらに別の国に輸出される、いわゆる「再輸出」をも規制している。例えば、中国企業や日本企業が米国原産品・技術を使って製造した製品を第三国に輸出する場合、米国の再輸出規制が適用されることになる。この再輸出規制は、中国商務部に不当な域外適用と判断される可能性がある。

[11]  米国の経済制裁法は、米国法主体(U.S. person)のみならず、一部は、非米国法主体(non-U.S. person)にも適用される。米国法主体と制裁対象との取引等を禁止する措置は一次的制裁(primary sanctions)と呼ばれるのに対して、非米国法主体と制裁対象との取引等を禁止する措置は二次的制裁(secondary sanctions)と呼ばれる。この二次的制裁は、米国人・米国企業・米国原産品・技術等米国の要素を何ら含まない取引であっても禁止するものであり、中国商務部に不当な域外適用と判断される可能性が高いと思われる。

[12]  List of Specially Designated Nationals and Blocked Persons

[13] 反面、中国政府にとっては米国法律や措置の不当な域外適用を阻止するために本件規則を制定しておきながら、同規則にまで域外適用効果を持たせる、というのは身勝手で整合しないとの批判もあるだろう。

[14] 契約法第52条。

[15]  行政法規とは国務院が法律に基づき制定するもので、部門規章より効力が高い。

[16] さらに、請求原因は何なのか、中国の裁判所は人的管轄権があるのかなどの問題がある。

[17] 契約上の手当として、当事者は適用される輸出管理規制や経済制裁法を遵守しなければならず、それに違反することにより相手側に損害をもたらす場合、補償しなければならないといった輸出管理・経済制裁法に関する条項がよく見られる。II.Bにある設例でいえば、仮にA社がC社から購入する米国技術が含まれる製品を米国エンティティリストにあるB社に提供した結果、C社が米国政府に調査・処罰されるなど、何等かの損害が発生すれば、C社は契約における輸出管理や経済制裁法の遵守及び補償条項に基づき、A社に対して補償を請求することができるはずである。ただし、これらの契約条項は、「域外適用阻止規則」や商務部の禁止令に抵触するため無効にされるリスクはある。外国裁判や仲裁でC社に有利な判決や仲裁判断が出されたとしても、A社は「域外適用阻止規則」第9条第2項に基づき、中国の裁判所で訴訟を提起し、C社に損害賠償を請求する(あるいは外国判決・仲裁判断の中国での執行にあたり公序良俗違反を主張し、その承認・執行を排除する)という可能性はある。

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