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クライアントアラート

世界初 「E5共同指針」によるロシアの武力体制維持に重要な品目の横流しを防止する業界内のコンプライアンス強化

October 04, 2023

By Tom Best,Nathaniel B. Edmonds,Scott M. Flicker,& Lindsey Ware Dieselman

2023年9月26日、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、英国、米国の5カ国政府による「Export Enforcement Five」(E5)は、ロシアの武器調達にとって重要な品目についてロシアへの横流しやロシアによる外国調達を防止することに焦点を当てた共同指針(joint guidance)を発表した。E5のパートナーシップは、2023年6月28日、輸出管理の執行に関連する問題について国を跨いだ協力体制を敷き、制裁と輸出管理の潜脱を防ぐために加盟国たる5ヵ国とGlobal Export Control Coalition(GECC[1])によって創設された。E5による共同指針は、このパートナーシップの下で出された初めてのガイダンスであり、ロシアの武器開発技術にとって重要な機微な品目の横流しを優先的に取り締まるとの方針を示すものである。その上で、この共同指針は、E5が防衛、電子及びテクノロジー分野で活動する輸出業者にとって重要なコンプライアンス指針を示す確固たる役割を担っていることを明らかにするものである。この共同指針は、第三国の企業や金融機関、特にGECC加盟国以外の企業や金融機関にとって、潜在的リスクのある取引や資本の流れを特定し、それを是正する措置を講じるのに役立つ実用的なツールとしても役立つものとなっている。

E5による共同指針(Joint Guidance

E5による共同指針は、ロシアによる武力体制の運用や新たな武器開発に不可欠となる規制品目を45の輸出入統計品目番号(HSコード)で特定するとともに、産業全体としてこれらの品目がロシアへ横流しされないよう優先的に策を講じるべきであるとの指針を示すものとなっている。これらの45のHSコードは、集積回路や無線トランシーバー・モジュールなどの電子部品や、電子部品や電子回路の製造や試験に不可欠なその他の品目を含むものとなっており、共同指針ではこれら45のHSコードが4つの分類に振り分けられている。その上で、E5の共同指針では、これら45のHSコードのうち、輸出業者が違法な横流しを防止するために対策を最優先して講じるべき9つのHSコードが特定されている。これら9つの優先度の高いHSコードには、集積回路、マイクロエレクトロニクス、無線通信に関連するその他の電子機器、衛星ベースの無線ナビゲーション、受動電子部品などが含まれる。

共同指針は、E5の輸出規制や制裁規制の潜脱を取り締まっていくため、輸出業者が45のHSコードのいずれかを取り扱う際には、輸出業者はそのデュー・デリジェンスを強化するよう奨励している。具体的に、共同指針においては、E5が横流しの懸念を持っている取引のうち、GECC非加盟国の輸入業者が関係してくるいくつかの取引パターンと属性として次のものが列挙されている。

  • 企業が2022年2月24日以前に取引関係になかった相手方から2022年2月24日以降、取引を開始するよう求められた場合
  • 2022年2月24日以前に取引関係はあったものの、それらの取引品目には取締りの優先度の高い9つのHSコードに関連する品目が入ったことが今までなかったにもかかわらず、2022年2月24日以降、これらの品目について取引を開始するよう相手方から求められた場合
  • 2022年2月24日以前に取引関係にあり、それらの取引品目に取締りの優先度の高い9つのHSコードに関連する品目が入っていたものの、2022年2月24日以降、これらの品目について取引を大幅に増やすよう相手方から求められた場合

共同指針はさらに、指針内で特定された45のHSコード全てにつき、これらのHSコードのいずれかに該当する品目を取扱う輸出業者は、輸出前に顧客及び取引内容のデュー・デリジェンスを実施すべきであると勧告している。そのデュー・デリジェンスの一環として、輸出業者は、E5によって特定された上記取引パターン該当性を検討することが求められている。既存の顧客については、輸出業者は、エンド・ユーザーや最終的な製品の使用方法を特定・評価することが求められるとともに、注文の数量や金額の異常な増加又は注文された製品と顧客の事業内容との間で整合性が取れない場合等を含む「レッド・フラグ(「Red Flag」)」を特定・評価することを奨励している。新規の顧客についてE5の指針は、輸出業者に対し、GECC非加盟国に所在するものを新たな顧客として迎え入れる場合には、次の内容に配慮をしたデュー・デリジェンスを実施することを求めている。

  • 新規顧客の法人設立日を確認し、その日付が2022年2月24日以降である場合には、Red Flagとして評価すること
  • 新規顧客の事業内容と発注品目との間で整合性が取れているか等を含め、製品のエンド・ユーザーと最終的な製品の使用方法を確認すること
  • 新規顧客の物理的な所在地とネット等で公開されている情報にRed Flagを疑わせるような内容がないかを確認すること(たとえば、物理的な所在地とネット等で公開されている所在地に齟齬があるか、そもそもネット等で入手できる情報があるか否かを検討していくことになる)

E5の共同指針は加えて、顧客及び取引内容に着目したデュー・デリジェンスを行う際、輸出業者が同時に検討すべき潜在的Red Flagの兆候(すなわち、輸出管理・制裁を逃れようとする兆候)も示している。そこで示されている兆候には、次のようなものが含まれている。

  1. 2022年2月24日以降に設立され、GECC非加盟国に拠点を置く企業から軍用製品又は軍民両用(Dual-Use)製品に関連する取引の支払いを受ける場合
  2. 新規顧客として、2022年2月24日以降に設立され、GECC非加盟国に拠点を置く企業の中でも、事業内容が対策を最優先して講じるべき9つのHSコードに関連するものとなっている企業を迎え入れる場合
  3. 既存顧客が2022年2月24日以前は対策を最優先して講じるべき9つのHSコードに関連する輸出入に関わっていなかったにもかかわらず、同日以降、これらの品目を既知の出荷点に輸出あるいは再輸出するようになった場合
  4. E5域外に拠点を置く既存顧客のうち、2022年2月24日以前に対策を最優先して講ずべき9つのHSコードに関連する品目を1つあるいは複数取扱う輸出入に既に関わっていた顧客が、同日以降、これらの品目に関連する取引の大幅な増加を求めてきた場合
  5. 顧客がエンド・ユーザー、最終的な製品の使用方法、会社の所有者情報等を含め、銀行、荷送人又は第三者に関する詳細な情報を保有していない場合あるいはそれらを保有しているにも関わらず、それらの情報提供を拒む場合
  6. 同じエンド・ユーザーの外国の銀行口座から同じ軍民両用製品のサプライヤーに対して複数回に渡り、少額の規模の小さい取引として、支払いが行われている場合
  7. 最終荷受人又は「委託先」フィールドに記載されている当事者が、通常、対象商品の消費又は使用と一致するビジネスに従事していない当事者(他の金融機関、メール・センター、物流会社など)である場合
  8. 顧客が既に一定の市場価格が存在する商品に対して、その市場価格を大幅に上回る過剰な支払いをする場合
  9. 顧客又は顧客の住所が、E5のうち1つ又は全ての国が規定する取引を行ってはいけない相手として規定される禁止当事者又は制裁リストに列挙された当事者のものに類似する場合

E5の共同指針で強調されているように、輸出業者は適用され得る全ての輸出管理・制裁規制を確実に遵守する責任があり、これらの潜在的Red Flagの兆候は、E5加盟国全てに跨る規制の遵守を確保するために重要な指針となる。これらの遵守推奨事項に従わない場合、風評被害を受けたり、将来の事業運営が困難となったり、罰金、及び/又はE5のさまざまな執行体制によって異なる民事的及び刑事的執行措置が発動する可能性があるとE5の共同指針で明示されている。これらのリスクはE5諸国の企業、機関、個人だけでなく、世界中、特にロシアとの貿易の積み替え地点として知られる第三国に所在する事業体にも当てはまることに留意すべきである。

実践的なポイント

共同指針では、企業や機関が特定の商品や技術を横流ししてしまうリスクを軽減するために実践的に利用することのできる取引における着眼点が明記されている。列挙されたリスク要因に加えて、横流しリスクの対象となる他の商品を輸出する企業や機関は、既存のコンプライアンス管理がこれらの明白なリスクを回避するために適切であるかどうかをチェックするために、事前のリスク評価又はコントロール・ギャップ・アセスメントに関連して、これらの取引における着眼点を利用することも検討できる。企業や機関は、2022年2月以降の過去の取引に何らかのリスクを認識した場合に、過去の取引を積極的に振り返るためのベースとしてこの指針を使用することもできる。特に、2022年2月以降の取引で何らかのリスクがあるとの認識がある企業は、積極的に過去の取引の再評価をすべきである。というのも、共同指針では、Red Flagに該当する貿易及び資金の流れと関連して、E5諸国が取りうる執行方針が明確に示されているとともに、執行機関はロシアへの商品の潜在的な横流しに関与している他の企業を特定するために業界全体に対し積極的に働きかけを行っていることも明らかとなっている。実際、米国産業安全保障局(BIS)は、輸出業者が採用するための共同指針を反映したフォーム認証とベストプラクティスガイドを発行している。

結論

E5の共同指針が示すように、ロシアによる輸出規制・制裁規制の回避を阻止するというE5の使命を支援する上で、民間企業と金融機関は重要な役割を果たしている。E5の共同指針が「防衛の第一線」として横流しと規制回避のリスクを軽減するための統一的な推奨事項を企業に提供しようとしているということを理解するにとどまらず、企業や金融機関は、適用される現地の貿易管理規制を個別に順守し続けるべきである。これを怠ると、調査が行われ、罰則が科される可能性があり、第三国の企業や機関の場合は二次制裁が科される可能性がある。E5の共同指針は、E5がロシアへの重要な品目の横流しや輸出管理・制裁の潜脱を発見、防止、処罰するための協力体制を引き続き強化していく中で、加盟国間でより調和のとれた貿易管理体制を構築することが期待されている。


[1] GECC は、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイス、27のEU加盟国、E5を構成する5 カ国、日本、韓国、台湾を含む 39 カ国で構成される。

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