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クライアントアラート

米国司法省が企業取締方針を改訂

January 20, 2023

By Kwame J. Manley,Nathaniel B. Edmonds,Leo Tsao,Nisa R. Gosselink-Ulep,& Daye S. Cho

2023年1月17日、Kenneth A. Polite, Jr. 司法次官補は、企業が自己開示、捜査協力及び是正措置の実行をした際の処遇を規定する米国司法省の企業取締方針(CEP、Corporate Enforcement Policy)について、重要な改訂を発表した。Polite司法次官補は、企業犯罪を捜査・起訴する刑事局の活動は、「不正をした従業員について当局に報告・申告」し米国司法省の「犯罪対策の協力者となる」企業に支えられていることを明らかにした。

より多くの自発的な自己開示を奨励すべく、刑事局は新たに「企業取締及び自発的自己開示方針(Corporate Enforcement and Voluntary Self-Disclosure Policy、改訂版 CEP)」と題し、事件の起訴不起訴や罰則の減軽を認めるためのより大きな裁量を検察官に認める方向で、既存のガイドラインを改訂した。改訂版CEPは、個別的かつ実効的なコンプライアンスプログラムの強化も含め、Lisa O. Monaco司法副長官が最近発表した米国司法省の新たな企業取締の基準を満たすために、企業が何をする必要があるかを明確にするものでもある。しかし、改訂版CEPはメリットばかりではない。Polite司法次官補が述べたことによれば、刑事局は「潜在的なインセンティブに透明性を与えることで、(米国司法省の)期待に応じない企業は自らのリスクでそうしていることになる」ことを強調している。

改訂版CEPにより、刑事局はその運用の透明性を高め、飴と鞭の組み合わせによって、検察官が企業の態度を識別することを可能にする体制を整備したようである。改訂版CEPは企業による自己開示を促しうる段階的かつ潜在的に重要な変更を示す一方で、その適用が相変わらず不透明であること及びより強固な捜査協力・法令遵守を求められること(これらはすべて検察官の裁量に従う)から、今回の改訂が企業の決定に与える影響は限定的であると考えられる。もっとも、企業としては、自社が直面する具体的なリスクを理解することにより、コンプライアンスプログラムの強化を継続すべきという米国司法省の助言に耳を傾けるべきである。

本稿では、改訂版CEPの変更点の概要を紹介するとともに、自主的な自己開示、捜査協力及び是正措置に関し、これらの変更が、企業にとってどのような意味を持つかについて、重要なポイントを伝える。

企業不祥事へのスタンスを強める米国司法省の近年の取組

2021年10月以降、米国司法省は企業取締の方針を修正する一連の文書を発行してきた。直近の改訂は、Monaco司法副長官が公開した覚書(「Monaco Memo」)であり、企業による自主的な自己開示、捜査協力した企業が優遇を受けるための要件、過去の不正行為の評価、独立したコンプライアンス・モニターシップ、企業のコンプライアンス・プログラムへの期待など、広範な範囲をカバーする。Monaco Memoは以前、弊所のクライアントアラートでも紹介したところである。

改訂前のCEPと一貫して、Monaco Memoは、企業において不正行為があった際、企業が自主的に自己開示をし、全面的に捜査協力をし、是正措置を講じた場合には、(1)加重要件がない限り、米国司法省は有罪の申立てをしない、(2)最終判断時に企業が効果的なコンプライアンス・プログラムを導入・実施している場合、米国司法省は監督者の選任を要求しない、という点を明確にした。他にもMonaco Memoは、捜査協力をしなかった企業や過去に不正行為を行った経歴のある企業、特に以前に不訴追合意(non-prosecution agreement)や起訴猶予合意(deferred prosecution agreement)をしていた企業に対しては、より厳格な取扱いをすることも示した。

しかし、Monaco Memoは、自己開示、捜査協力および是正措置を講じた企業であっても、不正行為に企業の経営陣が関与している、企業が多額の不正な利益を得た、著しい非難に値する広範な不正行為が行われた、あるいは過去にも不正行為を行ったことがあるといった加重要件が存在する場合、米国司法省がこのような企業をどのように取扱うかについての方針は示さなかった。今回発効された改訂版CEPにおいて、刑事局はこの点に関し、有益な指針を示した。

自己開示を行う企業に対し提供する利益の最大化

改訂版CEPは、(1)自己開示をした企業に対し潜在的により多くの見返りを与えるとともに、(2)加重要件が存在する企業に対しても、緩和した最終判断が下される可能性を示唆することにより、より多くの企業が自己開示を行うよう奨励する内容となっている。Polite司法次官補は、企業がこれらの見返りを実際に受け取ることができるかにつき不確実性が残ることから、企業による自己開示を促進する効果は限定的である可能性も認識済みであることも示唆している。そのため、改訂版CEPは、企業が自己開示をすると決定した際に米国司法省がどのような対応をとるかの透明性・予測可能性を高めることも目指している。

まず、改訂版CEPにおいては、不起訴となることなく、刑事罰が科されることが決まっている企業が、自己開示を行い、捜査に全面協力し、適時適切に是正措置を講じた場合、刑事局は同企業に対し米国判決ガイドライン(the U.S. Sentencing Guidelines―「判決ガイドライン」)の規定範囲より最低でも50%、最大でも75%減刑した形での刑事罰を科すに留めるとの指針が示された。企業が以前にも不正行為を行った場合は、判決ガイドラインから減刑する最低割合につき検察官は裁量を有することとなる。以前は、減刑最低割合についての指針がなく、最大減刑割合も50%に留まっていた。

第二に、改訂版CEPにおいては、Monaco Memoで示された加重要件を充足する不正行為に加担した企業に対しても今まで以上の見返りを提供する可能性が示されている。改訂版CEPでは、以下の要件が充足されている場合、検察官は企業に対し不起訴処分を下すことが適切であると判断することができるとしている。

  • 社内で不正行為の存在の可能性を認識するや否や、企業が自己開示を直ちに行った場合
  • 不正行為および自己開示が行われた時点において、社内で効果的なコンプライアンス・プログラムおよび内部会計管理体制が敷かれており、これらの体制が適切に機能したことにより今回の不正行為が発覚し、自己開示に至った場合
  • 企業が米国司法省の捜査に対し、多大な協力をし、類まれの是正措置を講じた場合

改訂版CEPにおいて、たとえ刑事罰が科されることが決まってしまっている場合であっても、著しい非難に値する不正行為や再犯を除く複数の加重要件を充足した場合を除き、刑事局は一般的に企業に対し罪状認否を求めないとの指針が示された。

つまり、改訂版CEPは、最低でも50%の減刑を保証することおよび加重要件を充たしてしまう企業に対しても自己開示を行う利益を提供する可能性を示唆することにより、より多くの自己開示が行われることを奨励している。

自己開示を行わない企業に対しても小さいながら大きな利益を提供

自己開示を行わない企業に対しても、改訂版CEPは、その後、捜査に全面協力をし、是正措置を講じた場合には、当該企業に対し、利益を提供する可能性をも示した。改訂版CEPにおいては、捜査に全面協力をし、是正措置を講じた企業は、再犯事例である場合を除き、判決ガイドラインで規定する最低法定刑を50%に減刑してもらえる可能性が示された。なお、再犯事例については、検察官が最低法定刑をどの程度減刑するかにつき裁量があるとされた。改訂前のCEPにおいては、自己開示がなく、捜査協力および是正措置を講じるにとどまる場合には、最大でも25%の減刑しか受けられなかった。Polite司法次官補によると、利益を与える対象を拡大することにより、検察官が捜査協力および是正措置の質にも着目することが明確となったとされている。

そのうえで、改訂版CEPは、不正行為に従事した全ての者に関する全ての事実を「適時」に開示すること、積極的な捜査協力および海外にある文書や一時的にしか保存されないメッセージを含む全ての文書の保存・収集といった今回の改訂版CEPが発効される前から示されてきた捜査協力を強化する方針を継続するとの考えをも示した。これらおよびその他企業に期待される要請に応えられない場合、検察官は企業が捜査に全面協力をしないとして、企業が本来得られるはずの最大の利益を当該企業に与えないと判断することができることを意味する。Polite司法次官補の言葉を借りれば、「自主申告を怠り、(捜査への)全面協力を怠り、是正措置を講じることを怠れば、悲惨な結果につながる可能性がある。」

企業がより多くの利益を享受するために満たすべき要件は増えたのに対し、これらの要件の充足を怠った場合の結果はより厳格な制裁

改訂版CEP下で企業が潜在的に得ることのできる新たな利益の概要を説明することに加え、Polite司法次官補は、企業はこれらの利益を享受したいのであれば、「他の企業との差別化を図り、類まれな(捜査への)協力および是正措置を講ずること」に注力すべきであることを明らかにした。「類まれな(捜査への)協力」を説明するにあたり、Polite司法次官補は「刑事局が定める(捜査への)全面協力の方針をはるかに超え、ありきたりな協力や最高水準の協力のさえも超えた、真に類まれな協力」を企業は行うべきであると発言した。Polite司法次官補は、検察官が捜査協力の「質」を評価するに際し、考慮するいくつかの関連要素として、即時性、一貫性、程度および影響力といった要素を挙げた。

与えることのできる潜在的な利益の幅が広がったことにより、検察官は企業の捜査協力の度合いやその内容の違いに着目をし、企業間で取扱いを異にしていくことが可能となるが、企業としては米国司法省が実際どのような場合にいかなる判断を行うかを理解するにあたり、今後は公にされたこれらの考慮要素がこれから処理される事案にどのような作用をもたらすかを綿密に分析することとなろう。Polite司法次官補によると、「これらの措置を講じないと、企業は刑事摘発され、課徴金の支払いが科されるリスクにさらされ」るため、企業としてはいつ米国司法省に対し、自己開示を行い、自己開示をしない場合に米国司法省が企業の不正行為を米国司法省の側から発見する可能性がどの程度なのかを丁寧に検討する必要がある。

企業にとっての重要なポイント

改訂版CEPは、刑事局が企業の自己開示、捜査協力および是正措置の実施をどのように扱うかにつき明確にし、CEPで定める要件を充足した企業に対してはより多くに利益を提供するとの指針を示すことで、刑事局に対して申告される企業による自己開示の数を増やすことを目指している。また、改訂版CEPが発効されたことにより、速やかな自己開示、捜査への全面協力および適切な是正措置の実施を怠った企業は、より重大な判断が下され、より重い刑事罰が科されるリスクにさらされることが明らかとなった。改訂版CEPが企業による自己開示の数を増やす効果をどれだけ有するかは今だ定かではないが、企業としては、新しい指針との兼ね合いで次の点を念頭に置くことが望まれる。

  1. 企業が自己開示の見返りとして受ける利益は今だ不明確であるということ

Monaco Memoにおいては、企業が自己開示を行うことによって得られる利益、特に過去に不正行為を行ったことのある企業や加重要件を充足してしまう企業が自己開示をすることによって得られる利益とはどのようなものであるかが不明確となっていた。改訂版CEPは、改訂版CEPで示された厳格な要件を充足した場合、過去に不正行為を行ったことのある企業や加重要件を充足してしまっている企業であったとしても、刑の減免を受ける可能性があることを示唆している。もっとも、これらの判断は検察官の裁量に依然として大きく依存してしまうことに加え、近年米国司法省が企業に対し求める捜査協力義務の強化の流れと相まって、企業としては改訂版CEP下で、自己開示が最終判断にどれだけの影響を与えるか現時点ではまだ明確に予測することはできないといえよう。

 

  1. 企業としては捜査協力により得られる最大の利益を享受できるよう適切な対応をとることが求められる

企業が米国司法省の捜査対象に挙がってしまった場合、企業としては、改訂版CEP下で提供されている全ての利益を享受できるよう対応する必要がある。改訂版CEPでは、捜査への全面協力を行った企業に対しては、判決ガイドラインが規定する法定刑の幅から大幅な減刑が可能となる方針が示されており、「類まれな」捜査協力をした企業に対してはより多くの利益を与えることを示された。したがって、企業としては、米国司法省と明確な意思疎通を図り、企業が米国司法省が企業に求めている捜査協力の期待値を理解していることを明確に伝えるにとどまらず、米国司法省が企業による捜査協力を全て認識していることを確認したうえで、企業が最大の利益を得られるよう対応する必要がある。

 

  1. 改訂版CEPにおいても効果的なコンプライアンス・プログラムの運用は重要な考慮要素となっている

Monaco Memoにおいて、企業が自社において効果的なコンプライアンス・プログラムを構築・運用することが米国司法省が最終判断を下すうえで重要な要素であることを明らかにしたが、改訂版CEPにおいてもこの考えは強化された。何よりも改訂版CEPは、企業が不正行為が行われた時点においても効果的なコンプライアンス・プログラムを運用していることを奨励しており、加重要件を充足してしまっている企業が減免対象となるには、「効果的なコンプライアンス・プログラムおよび内部会計管理体制が社内で敷かれており、これらの体制が適切に機能したことにより今回の不正行為が発覚したこと」が求められている。企業としては、「企業が従事するビジネスに関連して内在するリスク」を加味したコンプライアンス・プログラムを構築することで、改訂版CEPに対応することが求められる。企業は、自社のプログラムが企業が運営上直面するリスクを現実的に加味したうえで構築されてることを示すことが求められるとともに、同プログラムの有効性が検証されており、継続的に改善されていることをも示すことが求められる。

刑事局は多数ある米国司法省の部署の中でも、司法副長官の求めに応じ、CEPをを改訂する作業を行う最初の部署である。次の数か月で、国家安全保障、環境・天然資源および民事の部門に関わる部署からなる司法の中枢が多くの米国検察庁とともに、各々の管轄範囲で適用される若干のニュアンスの違いはあるものの今回の改訂版CEPと類似の方針を宣言していくものと思われる。これらの類似の方針と改訂版CEPの方針の相違点を理解することは重要となってくる。今後さらなる指針が示される予定であり、企業としては、米国司法省との対話においてこれらの指針を念頭に踏まえたうえで、社内において重要な判断を行うことが求められる。

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[1] Kenneth A. Polite, Jr., Assistant Attorney General of the U.S. Department of Justice, Remarks on Revisions to the Criminal Division’s Corporate Enforcement Policy (Jan. 17, 2023), Washington, D.C. See also U.S. Department of Justice, Criminal Division Corporate Enforcement and Voluntary Self-Disclosure Policy, JUSTICE MANUAL § 9-47.120 (2023). The Criminal Division investigates and prosecutes organized and transnational crime, securities fraud, health care fraud, Foreign Corrupt Practices Act (“FCPA”) violations, money laundering, international narcotics trafficking, and human rights violations, among other federal crimes.

[2] Lisa O. Monaco, Deputy Attorney General of the U.S. Department of Justice, Memorandum on Further Revisions to Corporate Criminal Enforcement Policies Following Discussions with Corporate Crime Advisory Group (Sept. 15, 2022).

[3] Paul Hastings, “New Enforcement Policies Signal an Important Shift in DOJ’s Approach to Corporate Prosecutions” (Sept. 20, 2022). This article may be found here.

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