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中国での経営不振による人員整理に関する法規制と実務

I. はじめに

中国経済の成長率の鈍化が長期化し、特に2019年以降からは、米中貿易摩擦、地方政府の資金不足、経営判断の慎重化による内需の停滞の影響もあり、在中の外資系企業には、収益が極端に悪化し、経営不振に陥った会社が多くみられるようになった。このような背景の中、組織再編や人員整理を試みる会社が増加傾向にある。本稿では、経営不振による人員整理に関する法規制及び実務上の留意点について説明する。

II. 設例

中国の東部沿岸地域に位置する日系企業Aは90年代に設立された独資の製造業の会社であり、従業員は約400人、勤務歴5年以上のベテラン従業員が半数以上である。ここ数年、賃金上昇、原料価格上昇、景気減退等の原因によって、赤字決算となっている。そのため黒字化を目指して、会社組織を再編し、100人程度の人員を削減する計画を立てた。人員整理対象者の中には、無期限雇用者、定年まで5年未満の者、管理職等が混在している。そもそも中国法の下でかかる人員整理を進めることが可能か。可能であれば、どのような点に留意しながら進めればいいか。

III. 経済的理由による整理解雇

中国では、人員整理に関する実質要件や手続要件が法律上規定されている。労働契約法第41条1項には20人以上、又は20人未満であるが従業員総数の10%以上の人員削減を行うことのできる場合を次のように規定する。

  1. 企業破産法の規定に従い会社更生を行う場合
  2. 生産・経営に重大な困難が生じた場合
  3. 企業の生産の変換、重大な技術革新又は経営方針の変更により、労働契約の変更後もなお人員削減の必要がある場合
  4. その他、労働契約締結時に前提としていた客観的な経済事情に重大な変化が生じたため、労働契約の履行が不可能となった場合

経営不振の場合、上記②号に基づき人員整理を行おうとする会社が少なくないが、「生産・経営に重大な困難が生じた場合」とは具体的にどのようなことを指しているかについて、全国的に適用される明確な基準は存在しない。

地方政府によっては、関連規定が作成されているところがある。例えば、「天津市企業経済的人員削減に関する暫定規定」(津労局[2001]241号)第6条には、生産・経営に重大な困難が生じ、人員削減を行う必要がある場合、下記の要件をすべて具備しなければならないと規定されている。①3年以上の連続赤字、かつ赤字が毎年増加し、経営状況に明らかな好転が見られないこと。②2年以上稼働率が60%未満で、50%以上の従業員が就労を停止し自宅待機していること。③勤務している従業員に支払う給与が市に規定されている最低給与を下回る状況が連続6ヶ月以上継続していること。

また、無錫市の「企業経済的人員削減実施弁法」(錫労察[2001]8号)第2条には、雇用主は生産・経営に重大な困難が生じ、かつ下記の要件を満たした場合、人員整理を実施することができると規定されている。①採用の中止、残業の禁止、臨時や派遣社員の削減、給与の削減等の措置をすでに講じたこと。②上記の措置が採られ、6ヶ月経ったにもかかわらず、赤字状態から脱出できず、しかも生産・経営状況に明らかな好転が見られないこと。

ただし、これらの関連規定はあまりにも厳しいため、公開されている判例を見る限り、これらの関連規定を引用して人員削減の正当性を判断する判例は見当たらない。もっとも実務上、各地の労働行政部門が人員整理報告を受ける際に、これらの規定を参考することはあると言われている。

上海など現行で有効な明文の規定がない地域では、その運用が一層不透明である。判例も裁判所によって、判断基準が異なり、実質要件よりも手続要件がよりも重要視されている傾向がある。

手続要件としては、人員整理を実行する前に以下の手順を踏む必要がある。

  1. 人員整理実行30日前までに労働組合又は全従業員に対して状況を説明すること。
  2.  労働組合又は従業員の意見を聴取すること。
  3.  人員整理計画を政府の労働行政部門に報告すること。

労働行政部門への報告は、実務上一種の認可として運用されている地域がほとんどである。人員整理計画を行政部門へ報告するだけでなく、その報告の受付証明をもらえなければ、手続要件が満たされるとは言えないので、実質上、人員整理計画に対して行政部門の審査が介入することとなる。よって、人員整理をしようとする場合、地方労働行政部門と協議をしながら進めることがとりわけ必要であるといえる。

IV. 地方労働行政部門への事前相談

地方によっては、人員整理計画の報告を受付けるためのハードルが極めて高いところがある。当職らのヒアリングによれば、上海等の東部沿岸地域で、特に経済の先行きが不透明な現段階において、社会の不安定を招きかねない大規模な人員整理を避けるために、かかる報告をそもそも受付けないところも少なくない。受け付けるとしても、まず、従業員との協議による合意解除の試みを勧められるところが多い。

従って、第41条をもとに人員整理を計画する前に、地方労働行政部門に実務上の運用、即ち、人員整理計画の報告を受付けるか、受付ける場合、どのような条件で受け付けるか、実際に「生産・経営に重大な困難が生じた場合」の認定基準は何か等について、予め打診する必要があるのである。

V. 客観的事情の変化による労働契約の解除

労働契約法第40条3号には、「労働契約の締結時に前提とした客観的事情に重大な変化が生じ、労働契約の履行が不可能となり、使用者と労働者が協議を経ても労働契約の内容変更について合意できなかった場合」、使用者は30日前までに書面通知、又は1カ月分の賃金を余分に支払うことをもって、労働契約を一方的に解除することができると規定されている。

ただし、かかる条項における「客観的な事情の重大な変化」とは、通常、不可抗力、または労働契約が履行できなくなるその他の客観的状況に関すること、例えば、企業の移転、合併、資産の移転などを意味するとされている。[1]

実務上、何が客観的事情の重大変化にあたるかについて、画一的な判断基準は存在しないというべきであろう。雇用主が業績不振又は経営戦略上の理由に基づく組織再編等は、自己の都合で利益を追求するためになされた主観的な経営策略の変更であり、客観的重大変化とは見なされないとの判例がある一方 、[2]雇用主が不景気、業績不振または競争力向上などの理由でビジネスモデルの変更及び組織再編を実施する場合、信義誠実や公平の原則に違反するようなことがなければ、客観的事情の重大変化と見られるべきであるといった判例も少なくない。[3] 注意を要するのは、客観的事情の重大変化が生じ、それによって従業員が所属する職位がなくなったため、労働契約の履行ができないということだけでは、解除することはできないとの点である。追加の要件として、契約解除する前に、当該従業員と可能な配置転換について誠実に協議しなければならない。判例を見ると、裁判所は契約解除する前に、雇用主が従業員に現行条件とあまり変わらない条件で社内異動の機会をオファーし、誠実に協議したかどうかについて重要視していることが分かる。[4]

よって、労働契約法第40条3号を根拠に一方的に労働契約を解除しようとする際に、管轄権のある裁判所の実務と運用を丁寧に分析し、法的リスクを評価しつつ、現実的な配置転換の可能性を検討することが重要である。

VI. 合意解除

労働契約法第41条1項又は第40条3号を根拠に人員整理をすることが難しい場合、日系企業Aは現実的にはまず合意解除を目指すしかない。その場合、経済補償の基準を定め、人員整理対象となる従業員を選定し、個別に交渉の上、合意ベースで労働契約を解除するための計画を作成する必要がある。

  1. 経済補償の基準

実務上、合意解除による労働契約の終了を目指す場合、法律で定める経済補償の基準に一定金額を上乗せして合意に至るケースがほとんどである。

労働契約法には、勤務年数1年につき1か月分の賃金を支払うという経済補償の計算基準が規定されている。[5] 例えば、勤続期間3年の従業員に対して労働契約の解除を提案する場合は、最低限度として、当該従業員の契約解除前12か月平均賃金の3か月分の経済補償を支払う必要がある。[6] しかし、それはあくまでも労働契約法が定める最低限度の基準であり、実務上、円滑に進めるためにかかる最低限度に一定金額を上乗せる必要がある。

上乗せ金額はどれぐらいが適当であるかについては、時期、地域や業界によって異なる。下記は近年大規模人員整理を行った外資企業が出捐した経済補償金であり、とりわけ最近補償金額が上昇傾向にあることが分かる。[7]

人員整理実行時期 会社
削減人数 経済補償[8]

2012年
8月

Telecommunications company

1000

N+2
2012年
11月
Semiconductor company
N.A.
N+4.5
2014年
7月

Technology company
12500

N+6
2014年
9月
Computer software company 400
N+5
2014年
11月
Telecommunications company 700
から
800
N+2+2
2015年
10月
Technology company 800
N+3
2017年
1月
Technology company 2200
N+2
2017年
2月
Semiconductor manufacturing company 100
N+6
2017年
10月
Optical products company 2268
N+5
2019年
5月
Computer software company 900
N+6

b. 単独解除が制限される対象者(Protected Class)

人員整理においては、対象者の選定が非常に重要である。労働契約法第42条に規定されている人員、例えば、①職業病の疑いで診察中である者、②労災により負傷し、かつ労働能力を喪失した者、③業務外の理由で負傷し、規定の医療機関内にある者、④妊娠、出産、授乳期間にある者、及び⑤当該企業での勤続満15年以上で、かつ法定の定年退職まで残り5年未満の者は、企業が一方的に契約を解除できないので、これらの者に対して、経済補償金をさらに積み増しして合意解除を目指すほかはない。

c. 地方労働行政部門との連携

法的な要件ではないが、合意解除を目指す場合においても、地方労働行政部門と密接に連携し、協議をしながら実行することが勧められる。削減される人数、経済補償の金額等を含む合意解除の計画を事前に地方労働行政部門に開示し、その意見を求めることが必要であろう。合意解除に応じない従業員がいる場合、これらの従業員を第41条を根拠に人員整理する可能性についても地方労働行政部門の意見を求めることが相当であろう。

VII. 結論

経営不振による一方的な人員整理は実務上ハードルが高いのが現状である。また、法律に規定されたとおりに対応だけをすれば十分であるかと言えば、まったくそうではない。実務的には地方労働行政部門と相談しながら、まずは合意解除という方法で人員削減を実行し、どうしても合意に至らない一部の従業員については、法定の事由がある場合に、個別に一方的に解除という計画を立てることが通常といえる。円滑に人員削減を実現するためには、対象者の選定基準、経済補償金の算出基準等について、信義に基づき手続的にも誠実に対応することが重要となる。また、従業員から強い抵抗があり、労働紛争等が発生することもままあり、計画段階から労働行政部門や労働弁護士に相談し、緊急時に備える計画を作成しておくことが安全といえよう。

以上



[1]   「労働法の若干条文に関する説明」(労弁発[1994]289号)第26条

[2]   例えば、蘇州市中級人民法院(2016)蘇05民終9386号民事判決書、蘇州市中級人民法院(2019)苏05民终5800号判決書、吉林省高級人民法院(2017)吉民再296号民事判決書、上海市松江区人民法院(2019)沪0117民初5606号民事判決書。

[3]   例えば、上海市第二中級人民法院(2017)沪02民終8633号民事判決書、上海市第一中級人民法院(2019)沪01民終2056号民事判決書。

[4]   上海市第一中級人民法院(2017)沪民終10254号判決書、上海市浦東新区人民法院(2016)沪0115民初74944号判決書。

[5]   労働契約法第47条。

[6]   従業員の月賃金が所在する地域における前年度の従業員月平均賃金の3倍以上を上回る場合は、当該従業員に支払う経済補償の基準は、従業員月平均賃金の3倍の金額に従い支払うこととなる。労働契約法第47条2項を参照。

[8]   (N+α)か月分の賃金。Nは当該従業員の勤続年数、αは上乗せ分。


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