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EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD): 第40条a適用企業が現状を見直すタイミング

September 10, 2026

By Ruth Knox,Chris Jonesand Ophélia Claude

EU企業サステナビリティ報告指令(CSRD: Corporate Sustainability Reporting Directive)は、従業員500人以上のEU上場企業などを対象に、環境・社会要因が事業に与える影響や、事業が人や地球に与える影響について、2025年時点のデータに基づく報告を義務付けました。この詳細な規制体制は、EU域内で実質的な事業基盤を持つ非EU法人も対象とすることを意図したものです。

しかし、欧州の競争力に関する見直しの結果、「Stop the Clock(時計の針を止める)」規則 が制定され、EU全加盟国におけるCSRDの導入が一時停止されました。これは、欧州で事業展開する企業がグローバルな規模で競争できる環境を確保するという目的を念頭に置きつつ、EUの規制当局が本制度が目的に適合しているかを再検討するための措置です。

この法制により、EUの大企業(現在は従業員1,000人以上かつ年間収益4億5,000万ユーロ以上の「対象EU企業」)による情報開示の遵守期限は2028年へと延期され、2027年に収集・分析されたESGデータに基づく報告が行われることになりました。また、EU域内で実質的な事業基盤(収益2億ユーロ以上の支店または子会社)を持つ非EU企業(すなわち、EU域内で4億5,000万ユーロ以上の収益を上げる企業)の情報開示の遵守期限も2029年へと延期され、2028年に収集・分析されたESGデータに基づく報告を行うこととなっています。

本稿では、EUの技術諮問機関である欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)がパブリックコメントのために公表した、これら非EU企業の情報開示を規定する規制基準案(第40条aに基づくESRS公開草案)に関する重要な疑問についてお答えします。本協議は2026年10月31日に締め切られ、EFRAGは2027年1月に技術的助言を公表、実施法案は2027年半ばに採択される見込みです。

1. 自社の非EU事業はCSRDの対象となりますか?

(i)過去2つの連続する会計年度においてEU域内で4億5,000万ユーロ以上の収益を上げ、かつ(ii)直前の会計年度において2億ユーロ以上の収益を上げた子会社または支店をEU域内に有している場合、貴社はCSRDの対象(すなわち「第40条a適用企業」)となります。第40条a適用企業が連結財務諸表を作成する最終親会社である場合、公表されるサステナビリティ報告書は、適用される会計基準に従い、親会社および子会社を網羅していることが求められます。

2. 自社の子会社がすでに単独でCSRDの対象となっている場合はどうなりますか?

企業グループ内に「対象EU企業」が存在する場合、当該事業体は、2028年に発行される経営報告書での開示に向けて、2027年1月より環境、気候変動、雇用、人権に関するリスク、影響、機会についてのデータの収集・分析を行う(またはその準備を進める)ことが想定されます。

貴社が、2028年に収集・分析したESGデータを用いて2029年からの報告作成を義務付けられる非EUの第40条a適用企業である場合、「対象EU企業」である子会社は2028年に単独で報告を行う必要がありますが、2029年以降は、その報告内容が親会社の連結財務諸表に組み込まれることになります。

3. EU子会社とESG報告書を合理化・統合することは可能ですか?また、そうすべきでしょうか?

第40条a ESRS公開草案のもとでは、第40条a適用企業および対象EU企業の影響に関する報告方法について、以下の選択肢が設けられています。

  1. i. グローバル報告(Global reporting)
  2. ii. ハイブリッド報告(Mixed reporting)
  3. iii. 全面的なESRS報告(Full ESRS reporting)

4. 「グローバル報告」とは何を意味しますか?

「グローバル」報告基準とは、すべてのテーマにおいてグローバルレベルで影響を報告することを意味します。報告の境界は、第三国の最終親会社のグループ連結財務諸表と同じになります。つまり、報告目的が「影響(インパクト)」のみに限定される(すなわちリスクと機会が除外される)点を除いては、EU企業が完全なESRSの下で行うのと全く同様に、第40条a適用企業は世界中の事業活動および上流・下流のバリューチェーン全体に渡る、人や地球に対するの重大な影響について報告することが求められます。

5. 「ハイブリッド報告」とは何を意味しますか?

「ハイブリッド」報告基準とは、気候変動以外のアジェンダについて、第40条a適用企業が以下の2点に限定して報告できることを意味します。(a)EU域内で販売・提供された、または販売・提供されると合理的に推測し得る製品・サービスから生じる影響 、および(b)当該企業のEU域内での活動による影響(EUインパクト)です。これらは「顧客」および「拠点」に基づく影響とも呼ばれます。この方式は、EUインパクトが明確に特定できる場合にのみ利用可能です。第40条a ESRS公開草案においては現在複数の論点が協議中であり、これらのアプローチは今後変更される可能性がある点にご留意ください。

6. 「全面的なESRS報告」とは何を意味しますか?

第40条a適用企業は、対象EU企業に適用される要件に基づき、全面的なESRS報告書を作成することを選択できます。これを選択した場合、ダブル・マテリアリティの原則(すなわち、環境・社会要因が事業に与える影響と、事業が人や地球に与える影響の双方)に基づいて報告する必要があります。第40条a適用企業がこの基準で報告を行う範囲において、対象EU企業であるEU子会社は、CSRDに基づく自社の報告義務が免除されるという恩恵を受けられる可能性があります 。一方で、第40条a ESRS公開草案は今後さらに簡素化される余地が十分にあるため、これを選択する第40条a適用企業は、より厳格な規制体制を自発的に引き受けることになります。

7. 第40条a適用企業に対するCSRDの報告要件は何ですか?

第40条a適用企業は、2026年7月に公表された第40条a ESRS公開草案に定める詳細な報告要件に基づき、環境および社会要因に対する自社の影響に関する情報を2027年中に収集・分析する必要があります。その後、2028年に専用のサステナビリティ報告書において、それらの影響を報告することが求められます。この報告書は、第40条a適用企業のグループ財務諸表と同じ対象範囲を網羅している必要があり、EU子会社または支店を通じて公表し、アクセス可能な状態にすることが求められます。

8. 第40条a適用企業が開示すべきテーマは何ですか?

40条a ESRS公開草案は、対象EU企業向けの欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)の仕組みを反映しており、2つの分野横断的な開示基準と10のテーマ別基準を維持しています。後者(テーマ別基準)には、気候変動、汚染、水、生物多様性、資源利用、自社従業員、バリューチェーン内の労働者、影響を受けるコミュニティ、消費者/エンドユーザー、および事業活動が含まれます。

9. なぜ気候変動は他の環境・社会テーマと異なる扱いを受けているのですか?

気候変動の影響は本質的にグローバルなものであるため、EFRAGは気候変動に関するグローバル要件を維持しています。さらに、非EU圏の多くの法域において、IFRS S2(気候関連開示)に基づく基準がすでに採用されているか、あるいは採用の途上にあるため、理論上、非EU企業は気候変動に関するグローバルな報告に向けた準備が比較的整っていると考えられるためです 。

10. 第40条aの目的において「マテリアルな(重大な)情報」とは何ですか?

第40条a適用企業は、マテリアルな(重大な)情報、すなわち(a)汎用財務報告書の主要な利用者、および(b)企業の影響に関する汎用サステナビリティ報告書の利用者の意思決定に影響を与えると合理的に見込まれる情報を報告することが義務付けられています。加えて、自社の事業活動や上流・下流のバリューチェーン(製品・サービス、あるいは契約の有無を問わず広範な事業関係を通じたものを含む)に関連するものを含め、短期・中期・長期にわたり人や地球に対して事業が与える、重大な現実のまたは潜在的な影響、そして正または負の影響に関する情報も報告することが求められます。潜在的か現実的か、正か負か等に応じて、影響のマテリアリティを規定するさらなる定義が設けられています。

11. 第40条a ESRSの公開草案は、IFRS S1及びS2と互換性または相互運用がありますか?

前提として、IFRS S1およびS2基準は、その財務的マテリアリティの定義に関してこれまで詳細な精査の対象となってきました。それにもかかわらず、企業や資産運用会社に対して気候関連の財務開示を義務付けている(または義務付けようとしている)世界中の複数の法律や立法プロジェクトにおいて、これらの基準が依然として重要であることに変わりはありません。40条a ESRS公開草案は、ガバナンス、戦略、方針・行動を通じたインパクト管理、指標、および目標に関する開示を要求している点で、IFRS S1およびS2基準と共通の基本構造を有しています。気候固有の開示事項には、移行計画、カーボンクレジット、温室効果ガス排出量、および温室効果ガス排出削減目標が含まれます。同時に、40条a ESRS公開草案では、エネルギーの消費量と構成比、ロックインされた排出量、1.5℃シナリオに沿った脱炭素化経路との適合性、生物起源の排出量、温室効果ガスの除去、化石燃料部門における活動の開示、および内部炭素価格(インターナルカーボンプライシング)について、追加の開示を求めています。一方で、40条a ESRS公開草案は、気候リスクとシナリオ分析、気候変動に関するレジリエンス、ならびに重大な物理的リスクおよび移行リスクから予想される財務的影響については除外しています。

12. 自社が第40条a適用企業に該当すると思われます。今後の対応について教えてください。

まずは、対象EU企業を有しているかどうかの確認を含め、社内および外部の弁護士と共に適用範囲の分析を確認されることをお勧めいたします。このプロセスの一環として、グローバルな企業グループにとってどのコンプライアンス手法が最も適切かを特定し、第40条a適用企業と対象EU企業の双方の報告期限に間に合わせるために収集・分析が必要となる情報のマッピングを開始されるとよいでしょう。これには、グローバル報告、ハイブリッド報告、または全面的なESRS報告のいずれの方式にも対応できるよう、グループ、製品、顧客、拠点、およびバリューチェーンのマップを作成することが含まれます。報告が必要となる可能性のある課題を早期に特定・解決するため、貴社のデータ収集期間(すなわち2027年または2028年)が始まる前に、これらの評価に着手することをご検討ください。