left-caret

クライアントアラート

デラウェア裁判所、アクティビスト株主に対する ポイズンピルを無効化

March 12, 2021

新井敏之

今年2月26日にデラウェア裁判所(Court of Chancery)は、Williams Companies(本件会社)が採択した下記の性質を有するポイズンピルを無効化し、恒久的に差し止めた[1]

ポイズンピルの機能

通常テイクオーバーなどの意図による株式買い増しの懸念があり、それにより会社の健全な利益が損なわれる場合に、想定されたトリガーの到達を条件に、会社の新株発行を多数許容し、その発行価格を割引して設定することで、かかるテイクオーバーなどの完遂を実質上不可能ならしめる仕組み。

この裁判所は、ポイズンピルがコーポレートガバナンスにおける核兵器であると位置づけ、それが有効であるといえるためには厳格な審査が必要だという立場から出発している。

本件事案

  1. 本件会社は2020年年初以来、株価が3か月で55%下落していた。
  2. 本件会社は、アクティビスト株主がこの株価下落に関与しており、この機に乗じて不当な要求をすることを危惧して、かなり類例から乖離した要素を組み入れた、強硬なポイズンピルを採択した。
  1. トリガーは5%。株式に限らず、株式を取得する権利(warrant, option)も総合して算定する。
  2. 他の株主と協働する場合(acting in concert)には、それらの株主の持ち株を総合してトリガーを算定。
  3. 間接的な協働関係(daisy chain)も協働の定義を満たす。例えば、甲が乙と協働し、乙が丙と協働する場合、甲、乙、丙はすべて共同関係に立つと見做す。
  4. このトリガーは能動的な株主を想定するが、その定義は会社経営や政策の指示を意図することで満たされる。受動的な株主はその意味で多くても3社のみであった。
  1. このポイズンピルの採択の背景には当初のプロキシーステートメントにピルの提案を書いていなかったなど、手続き上の問題点が存在していた。
  2. 株主や市場はこのピルに否定的な見解を持つに至り、対決姿勢を明らかにした(その結果、本訴訟)。

論点

  1. 上記の内容のピルは有効といえるか。
  2. 有効でないとするなら、ピルのどの部分が問題と考えられるか。

裁判所の判断

  1. ポイズンピルの効力を争うという請求は、それ自体直接的な請求原因である。かつての判例[2]で示された、間接的な請求であるとの考えを取る必要はない。
  2. アクティビスト株主への対応を主眼とし、テイクオーバーを目的としたピルではなくても、Unocal Corp. v. Mesa Petroleum Co.で示されたenhanced scrutiny(より厳格な精査)の基準を適用する[3]
  3. Unocalの基準は、会社経営陣に対して①会社に損害が及ぶと考える合理的な理由の存在と②その対応策(ピル)が合理的で、かかる危機に対応するための方法として相当であること(reasonable and proportionate)を示すよう要求。
  4. 本件想定危機の評価は合理的とは考えられない。市場の混乱、株価下落とアクティビストの活動が関連しているかどうか;アクティビストが短期利益を追求するために、会社の健全な経営が阻害されるか、について、判決は一概に言えないとした。
  5. さらにこのピルは想定される危機に対応するための方法として合理性・相当性を逸脱している。具体的には、市場慣行から逸脱すると考えられる次の性質がそれにあたる。①5%のトリガーは極めて低いこと、②warrant, optionまで含めたこと、③協働関係の認定方法。加えて④協働関係の判断と積極的な株主の要件は、株主間の議論や連絡に萎縮的効果を伴うとした。
  6. これらを総合して、類例のない内容を規定したピルは、取締役らが想定した危機と整合しないものと判断。

教訓

  1. 何を会社に対する危機と評価し、対応を検討するか。それは明確、具体的で、客観的な危機である必要がある。
  2. 対応に使用する方法(ピルの内容)は、市場で類似の制度と比較して突出したものにはリスクがある。
以上
 

[1]   The Williams Cos. S’holder Litig., C.A. No. 2020, 0707-KSJM, Slip Op. (Del. Ch. Feb. 26, 2021).

[2]   Tooley v. Donaldson, Lufkin & Jenrette, Inc  (845 A.2d 1031, 1033 (Del. 2004)), Moran v. Household Int’l, Inc., 490 A.2d 1059, 1070 (Del. Ch. 1985) (“Moran I”), aff’d, 500 A.2d 1346 (Del. 1985).

[3]  Unocal Corp. v. Mesa Petroleum Co., 493 A.2d 946 (Del. 1985).

 

Click here for a PDF of the full text

お問い合わせ

詳細はこちら