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クライアントアラート

EUオムニバスI法案、その影響はどこにとどまるのか?

January 08, 2026

By Ophélia Claude,Ruth Knoxand Jacqueline Hill

背景

2025年、欧州委員会は、EU法全体で繰り返される事務的負担を軽減することを目的とした10の「オムニバス」イニシアティブのパッケージを提案しました。これらの提案により、全体で年間約119億ユーロの管理コスト削減が期待されています。

2025年2月26日、欧州委員会は、サステナビリティ関連の法律に焦点を当てた最初のオムニバス法案(オムニバスI)を採択しました。このパッケージは、サステナビリティ報告、デュー・ディリジェンス義務およびEU分類体系(タクソノミー)に関する要件を簡素化する目的で、企業サステナビリティ報告指令(CSRD:Corporate Sustainability Reporting Directive)および企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令(CSDDD:Corporate Sustainability Due Diligence Directive)を改訂するものです。欧州委員会は、これらの改訂により、約45億ユーロの事務コスト削減がもたらされると見積もっています。

指令(EU)2025/794は、2025年4月16日にEU官報に掲載され、2025年4月17日に発効しました。また、2025年12月31日までに加盟国によって国内法化される必要があります。本指令は、以下の適用を延期します。

  • まだ報告を開始していない大企業および上場中小企業に対するCSRD要件の適用の2年延期
  • 一定規模以上の大企業を対象とするCSDDDについて、国内法化の期限と第一フェーズの適用開始をともに1年延期

2025年12月16日、欧州議会は、サステナビリティ報告およびデュー・ディリジェンスの枠組み改訂に関して、欧州議会議員とEU各政府間で合意された暫定合意を承認しました。現在、2026年初頭に予定されている欧州連合理事会の第一読会での見解を待っている状態です。改訂された文書は、EU官報に掲載されてから20日後に発効します。

CSRD - 企業サステナビリティ報告指令

対象範囲 – 今後、CSRDは以下の企業に適用されます。

  • 事業年度中の平均従業員数が1,000人以上であり、かつ純売上高が4億5,000万ユーロ以上のEU域内企業(2027年1月1日以降に開始する事業年度から適用され、最初の報告書は2028年となります)。
  • 過去2連続事業年度においてEU域内での純売上高が4億5,000万ユーロ以上であり、前事業年度の貸借対照表日において2億ユーロ以上の純売上高を有するEU域内の子会社または支店を持つ、EU域外の親会社(2028年1月1日以降に開始する事業年度から適用され、最初の報告は2029年となります)。

初回の報告年度に向けて、EU域内企業は2026年の純収益と平均従業員数を評価する必要があります。また、EU域内に子会社または支店を持つEU域外の親会社は、2026年および2027年の親会社の純収益と、2027年の子会社または支店の純収益を評価する必要があります。以降、企業が適用対象となるかを判断するため、この評価は毎年実施されることになります。

これらの変更により、当初のCSRDの適用範囲と比較して、約80%の企業が対象外になると推定されています。ただし、元々CSRDの対象であった全ての企業が、2025年4月に採択された「時計の停止(Stop the Clock)」指令の恩恵を受けたわけではありません。第2・第3フェーズの企業は報告義務が2年延期されましたが、第1フェーズの企業は2024年1月1日以降に開始する事業年度から報告が求められており、最初の報告は2025年に行われます。これらに該当するのは以下の企業です。

  • EUの規制市場で取引を認められた証券の発行者(設立地を問わない)
  • EU域内で設立された企業であって、(i)EU市場での証券取引が認められている企業、(ii)保険会社、または(iii)銀行であり、いずれの場合も大企業[i]であり、事業年度中の平均従業員数が500人以上であるか、連結貸借対照表日において従業員数が500人を超える大規模グループ[ii]の親会社である企業

これらの企業の多くは、今回縮小されたCSRDの対象範囲から外れることになります。加盟国は2025年1月1日から2027年1月1日までの間、当該企業を報告義務から免除することができるため、第1フェーズの対象企業は、関連する加盟国において引き続き適用対象となるかどうかを確認する必要があります。

オムニバスI法案は、以下の免除規定も導入しました。

  • 主な目的が企業の株式を保有し管理することであり、日常業務に関与せず、かつ各対象企業が独立しており相互依存していない金融持株会社(例:プライベート・エクイティの場合など)。
  • EEAの取引所に上場している証券を有する企業で、当該企業が親会社の開示報告書に含められている場合。

バリューチェーンの上限 – 欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)に基づく報告が義務付けられている企業のバリューチェーンに属する小規模企業に対する保護措置が設けられました。これにより、従業員数が1,000人未満の企業は保護対象とみなされ、報告のために要求された情報の提供を拒否できる場合があります。さらに、報告を行う企業は、要求した情報が制限を超えているかどうか、および制限を超える情報の提供を拒否する権利があることについて、そのような保護対象企業に通知しなければなりません。

ESRS – オムニバス指令は欧州委員会に対し、指令の採択から6か月以内にESRSを以下のように改訂する委任規則を採択することを求めています。

  • 重要性が低いとみなされるデータポイントの削除
  • 定性的なデータよりも定量的なデータポイントの優先
  • 必須のデータポイントと任意のデータポイントの明確な区別
  • 不要な報告を軽減するための重要性(マテリアリティ)原則の明確化
  • 他のEU規制との整合性の向上

第1フェーズ対象企業の経験を含む公開協議プロセスを経て、欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)は、必須データポイントを半分以下に削除した簡素化されたESRSを公表し、欧州委員会に提出しました。簡素化されたテキストの草案は、EFRAGのウェブサイト(Draft Simplified ESRS | EFRAG)で確認できます。

情報収集に対する経過的支援およびその他の救済措置 – 報告開始から最初の3年間は、報告を行う企業がバリューチェーンからすべての情報を取得できない場合、見積もり(推定値)を使用することが認められます。この3年間の経過期間は、企業に報告義務が発生した時点から開始されます。

買収および売却 – また、事業年度中に買収された事業体については、翌事業年度まで連結報告に含める必要はありません。同様に、事業年度中に報告企業のグループから外れた事業体は、連結報告から除外することができます。

商業上の機密性に対する保護の強化 報告を行う企業は、その情報が商業上の立場を害する可能性がある場合、知的財産に関連する場合、または守秘義務や適用されるEUもしくは国内のプライバシー法により保護されている場合には、当該情報の報告を控えることができます。

見直しメカニズム 欧州委員会は、2031年7月26日までにCSRDの適用範囲に関する見直しを行うことを規定しています。これには、EUグリーンディールの目標に向けた民間投資の動員と、サステナビリティ報告がEU企業の競争力に与える影響とのバランスを考慮しつつ(比例原則を勘案)、サステナビリティデータの必要性を分析することが含まれます。

結論 – 以上の変更により報告負担は軽減されますが、企業様におかれましては、引き続き適用対象に含まれるかどうかの法的アドバイスを取得し、今後の実効的なコンプライアンスのあり方を綿密に評価されることをお勧めいたします。サステナビリティが意思決定にどのように組み込まれ、リスクや機会がどのように管理されているかを的確に捉えた(将来の潜在的な訴訟リスクも慎重に考慮した)高品質な報告を行うことで、企業は自社のサステナビリティの取り組みや、どの取り組みが最も価値をもたらしているかを適切に評価することが可能になります。

CSDDD – 企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令

適用範囲 – 改訂された規則は以下に適用されます。

  • 従業員数が5,000人を超え、全世界の年間純売上高が15億ユーロを超えるEU域内企業、またはグループの親会社。
  • EU域内における純売上高が同じく15億ユーロの基準を超えるEU域外企業、またはグループの親会社[iii]

調和の強化 – 暫定合意では、いくつかの中核的な条項について最大調和(maximum harmonisation)が導入されました。具体的には、(i)第6条(グループレベルでのデュー・ディリジェンス支援)、(ii)第8条(悪影響の特定と評価)および第9条(優先順位付け)、(iii)第10条第1項–第5項(防止)、(iv)第11条第1項–第6項(悪影響の終息)ならびに(v)第14条(苦情処理メカニズム)から第16条(コミュニケーション)です。これにより、加盟国の裁量が制限され、EU全体でのより一貫した実施が確保されることを目指しています。

リスクベース・アプローチの強化 – デュー・ディリジェンス義務は、悪影響の特定と評価において、リスクベースのアプローチにさらに強く位置づけられました。企業は、以下のような関連するリスク要因を考慮し、適切な措置を講じる必要があります。

  • ビジネスパートナーレベルの要因(例:当該パートナーが本指令または同等の法律の対象外であるか等)
  • 法執行の有効性など、地理的および状況的なリスク
  • セクター、事業運営、製品およびサービスに関連するリスク

スコーピング(対象範囲の絞り込み) – これまで求められていた事業全体およびサプライチェーンの完全なマッピング要件は、スコーピング演習へと置き換えられました。これは、合理的に入手可能な情報のみに基づいて、悪影響が発生する可能性が最も高く、かつ最も深刻な分野を特定するものです。対象範囲は以下の通りです:(i)自社の事業、(ii)自社の子会社、(iii)ビジネスパートナーを含む自社の活動の連鎖。

綿密な評価  スコーピングの結果に基づき、綿密な評価を実施しなければなりません。この文脈において:

  • 企業は、厳密に必要な場合にのみ、ビジネスパートナーに情報を要求することができます。
  • 従業員数が5,000人未満のビジネスパートナーについては、他の方法で合理的に情報を入手できない場合にのみ、情報を要求することができます。

活動の連鎖における異なるレベルの複数のビジネスパートナーから関連情報を取得できる場合、企業は、妥当な範囲において、悪影響が発生する可能性が最も高いパートナーへの情報要求を優先しなければなりません。複数の分野で悪影響の発生可能性または深刻度が同等である場合、企業は直接のビジネスパートナーが関与する分野の評価を優先することができます。

予防および救済措置 – 予防措置として取引関係を終了する選択肢が削除されました。企業は代わりに、取引関係を一時的に停止することができます。強化された予防行動計画が成功するという合理的な期待がある限り、ビジネスパートナーとの取引関係を継続すること自体が、企業を行政処分や民事責任の対象とすることはありません。

ステークホルダーおよび協議 – 「ステークホルダー」の定義が狭められました。ステークホルダーには以下が含まれるようになります:(i)会社の従業員、(ii)子会社およびビジネスパートナーの従業員、ならびにその労働組合および労働者代表、(iii)企業の事業、製品、サービスによって権利または利益が直接影響を受ける、あるいは受ける可能性のある個人またはコミュニティ、ならびに正当な代表者。この定義からは、消費者、市民社会組織、または国内の人権・環境機関が明示的に除外されました。

これに伴い、ステークホルダーとの協議義務も「関連するステークホルダー」に限定されます。特に、(i)取引関係の終了または一時停止を決定する場合、および(ii)モニタリング目的で定性的および定量的な指標を作成する場合は、協議義務が免除されます。

モニタリング – モニタリングの頻度が、「年1回」から「5年に1回」へと引き下げられました。

気候変動移行計画 – 気候変動緩和のための移行計画を採択する義務が削除されました。

監督当局 – 加盟国は、2028年7月までに管轄の監督当局を指定しなければなりません。

制裁 – 共同立法者は、行政上の罰金の最高額を企業の全世界での純収益の3%(以前に提案された5%から引き下げ)とすることで合意しました。欧州委員会は、制裁の適用に関するガイドラインを発行する予定です。

民事責任 – 暫定合意では、EUレベルでの調和された民事責任制度の撤廃が確認されました。見直し条項により、欧州委員会は将来的にこのような制度が必要となるかどうかの評価を行うことが求められます。したがって、民事責任は国内法で定められている場合にのみ発生することになります。

国内法化と適用 – 加盟国は、2028年7月26日までに国内実施措置を採択し、公表しなければなりません。この措置は、2030年1月1日以降に開始する事業年度から適用される報告義務の実施規定を除き、2029年7月26日から適用されます。

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[i] すなわち、貸借対照表日において、以下の3つの基準のうち少なくとも2つを超えた企業:(i)純売上高5,000万ユーロ以上、(ii)貸借対照表の合計額2,500万ユーロ以上、および/または(iii)従業員250名以上。

[ii] すなわち、連結対象となる親会社および子会社から構成されるグループであって、連結ベースで以下の3つの基準のうち少なくとも2つを超えるもの:(i)貸借対照表の合計額2,500万ユーロ以上、(ii)純売上高5,000万ユーロ以上、または(iii)従業員250人以上。

[iii] 規定の基準額を超えるロイヤリティと引き換えにEU域内でフランチャイズ契約やライセンス契約を締結した、EU域内・域外の企業またはグループの親会社も、一定の状況下で対象となります。

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