クライアントアラート
英国CBAM:分類、基準値、およびEUとの相違点
September 22, 2026
By Ruth Knoxand Julian Wolfgramm-King
英国の炭素国境調整措置(UK CBAM)は2027年1月1日に発効し、初回の申告および納付期限は2028年5月31日となります。2026年9月8日に最後の二次法令が制定されたことで法的枠組みが完成いたしました。この最後の法令では、排出量の算定と証明の方法が定められています。
本制度においては、特にご留意いただきたい4つの特徴があります。それは、未解決の課題、対象製品を特定するための商品コード、英国とEU間での基準値の相違、そして川下製品を対象に含めるためのEUのアプローチです。
対象製品を輸入する企業様にとって、年末までの優先事項として、適用する分類の正確性の確認、サプライヤーから提供されるデータの準備、そして費用や情報リスクに関する契約上の明確な責任分担を進めていただくことが推奨されます。
法的枠組み
英国CBAMは、アルミニウム、セメント、肥料、水素、および鉄鋼製品の輸入に適用され、サプライチェーンでこれらの品目を使用する川下の生産者にも間接的な影響を与えます。本制度は2026年財政法(Finance Act 2026)第5部に基づいて実施され、運営の枠組みを構成する法令は以下の通りです。
- 2026年炭素国境調整措置(管理規定)規則(S.I. 2026/802)
CBAM管理のための規制枠組みを確立しています。
- 2026年炭素国境調整措置(CBAM税率の算定および炭素価格控除の決定)規則(S.I. 2026/809)
CBAM税率の算定手順を定め、同一の排出量に対して適格な海外の炭素価格がすでに支払われている場合の炭素価格控除について規定しています。
- 2026年炭素国境調整措置(経過措置)規則(S.I. 2026/830)
2027年1月1日から2028年6月30日までの移行期間における納付、登録、会計期間、および関連する罰則の期日を調整しています。
- 2026年炭素国境調整措置(排出および検証)規則(S.I. 2026/995)(「排出・検証規則」)
内包排出量の算定、排出量データのモニタリングと検証、ならびに輸入者が保持すべき記録について規定しています。
英国歳入関税庁(HMRC)は、登録、記録保持、および炭素価格控除の申請に関する詳細なガイダンス集を公表しています(HMRC: Prepare for the Carbon Border Adjustment Mechanism)。
また、2026年9月8日に制定された施行令により、2027年1月1日よりCBAMに対して2009年財政法の利息制度が適用されます。HMRCに対する未納金には遅延利息が発生し、関連する罰金を含めHMRCから支払われる還付金には還付加算金が付与されます。
英国排出量取引制度(UK ETS)の第2割当期間は、英国CBAMの導入に合わせて2027年から2030年へと延期されました。CBAM対象の5セクターの施設に対するUK ETS排出枠の無償割当は、2027年から約9年間の軌道に乗せて段階的に廃止されます。この無償割当の減少に伴い、CBAMの税率は漸進的に上昇することになります。
排出量の算定および証明方法
英国CBAMはCBAM製品の輸入時に課税され、その税額は製品の生産に内包される温室効果ガス排出量を基準に算定されます。「排出・検証規則」は、その排出量の算定および証明方法を定めており、算定手順、基礎となるデータのモニタリングと検証、および保持が求められる記録を網羅しています。
数値を導き出すには2つのルートがあります。1つ目は「デフォルト値」を使用する方法です。これは、対象となるCBAM製品につき1トン当たりの標準排出量として英国財務省が公表するものです。製品の重量にその数値を掛けるだけで計算でき、検証作業は不要となります。2つ目は、製品を製造または加工した産業ユニットである「施設」の「実際の排出量(実排出量)」を使用する方法です。このルートは作業量が多く、第三者による独立した検証が求められますが、よりクリーンな生産者の場合は、通常、税額が低くなります。算定は8つのステップで行われ、概要としては以下の通りです。まず、特定の製品における暦年ベースの当該施設の検証済み総排出量を二酸化炭素換算で表し、前駆物質に内包される排出量を合算したうえで、生産された当該製品の重量で割ることで「排出原単位」を求めます。その後、これに輸入重量を掛け合わせます。
検証機関は、輸入者、施設、およびその運営者から独立していることが求められ、かつ対象となるCBAM製品の種類について、国際認定協力機構(Global Accreditation Cooperation Incorporated)の正会員による認定を受けている必要があります。実排出量を使用する輸入者は、検証報告書または製品固有の検証サマリーを6年間保管することが義務付けられています。
未解決の課題
現時点で2つの要素が未確定のまま残されています。HMRCは、内包排出量のモニタリング、報告、検証に関するガイダンス、ならびにアルミニウム、セメント、肥料、水素、鉄鋼セクターの適用税率およびデフォルト排出値に関するガイダンスを公表することを確認しています。
対象となる輸入企業様におかれましては、これらのデフォルト値の水準を注視していくことが重要です。EUは国別の値にマークアップを上乗せして適用していますが、英国はCBAM対象製品ごとに単一の値を設定し、制度開始前に英国財務省からの通知により公表する予定です。
2026年7月14日の政府による閣僚書面声明において、そのアプローチが示されました。2026年財政法別表17に沿った基本原則は、「対象企業が、実排出量の算定を行うよりもデフォルト値を使用することで有利な扱いを受けてはならない」というものです。したがって、デフォルト値は単純な世界平均ではなく、貿易加重平均に基づいて設定されます。この際、EUのような強固で義務的なモニタリング・報告・検証システムを持つ管轄区域のデータは除外され、必要に応じて追加のマークアップが考慮されます。具体的な数値は今秋に発表される予定です。
EU側では、第三国で支払われた炭素価格をCBAM証書の削減に換算するための実施規則草案を欧州委員会が公表しており、国レベルのデフォルト炭素価格と事業者向けの認証枠組みを確立しています。これにより、EUの輸入者は国境を越えたコスト相殺について詳細な枠組みを得ることになりますが、英国もS.I. 2026/809においてすでに炭素価格控除に関する法制化を行っています。
意図せず不作為によってデフォルト値のルートを適用することになった輸入者は、結果として税を過大に納付する可能性があります。また、2025年秋季予算で確認されたように、間接排出量の対象化は早くとも2029年まで延期されています。対照的に、EU CBAM(2026年1月1日以降の本格適用期間)では、特定のセクターにおいてすでに間接排出量が対象に含まれています。
商品コードによる対象範囲の定義
英国CBAMは、業界別ではなく商品コード(関税分類)によって対象範囲を定義しています。建設業者、食品製造業者、流通業者などが日常的に輸入しているアルミニウム製のワイヤーや箔、鉄鋼製の構造物や貯蔵タンク、ファスナー、固定具、部品、梱包材なども対象となる可能性があります。自社を「炭素集約型ビジネス」と認識されていない企業様であっても、納税義務が生じるケースがある点にご留意ください。
特別な税関手続きが、状況をさらに複雑にする場合があります。CBAM製品が英国の「内国加工(Inward Processing)」手続きの下で加工され、自由流通に向けた非CBAM製品が製造される場合、登録基準値の算定には、加工製品の一部を構成する「元のCBAM製品の部分の価値」のみが計上されます。
初期のスクリーニングは、製品の一般的な説明からではなく、関税分類から開始することが推奨されます。取引レベルのデータを抽出し、各申告が誰の代行で行われているかを特定し、商品コードを対象リストと照合し、除外規定の適用有無をテストしたうえで、制度が稼働する前に決定事項を文書化しておくことが望ましいといえます。
1つの貿易フロー、2つの基準値
英国は対象を「金額(価値)」で判定します。具体的には、毎月1日時点で過去12か月間に輸入されたCBAM対象製品が5万ポンドに達しているか、または今後30日間で達する見込みがあるかでテストします。一方、EUは「質量」で判定します。規則(EU)2025/2083により導入された「年間純質量50トン」という基準は、当初の委託貨物ごとの150ユーロの少額免除に代わるものです。なお、この50トンの免除は水素または電力の輸入には適用されず、量に関係なく完全に課税対象となります。この結果、同じ出荷貨物でも一方の管轄区域では対象となり、他方では対象外となる事態が生じ得ます。高価値の合金製品は英国では登録義務が生じる一方でEUでは対象外となる可能性があり、大量・低価値の製品の場合はその逆になります。
両市場に輸入を行う企業様におかれましては、単一のスクリーニング作業で対応を完了することは困難です。金額と質量を別々に監視し、それぞれの判定期間に照らして管理していただくことが求められます。
ETSの連携では構造的相違は解消されない見込み
規則(EU)2023/956を改正する欧州委員会の提案が採択されれば、2028年1月1日よりEU CBAMの対象が機械や電化製品など鉄鋼・アルミニウムを大量に使用する川下製品にまで拡大されます。この提案は現在、通常の立法手続を経ています。理事会は2026年6月12日に一般アプローチに合意し、欧州議会は2026年7月6日の環境委員会の採決を経て、9月15日に交渉上の立場を採択しました。議会の立場はさらに踏み込んだものであり、ヒートポンプやソーラーパネルなどのより多くの製品に対象を広げ、迂回防止規則を強化する内容となっています。最終的な対象リストは三者協議(トリローグ)で決定されますが、英国の対象リストは引き続き5つのセクター(アルミニウム、セメント、肥料、水素、鉄鋼)に限定されています。
対象範囲の拡大と並行して、議会は同日付で「一時的脱炭素化基金」の提案に関する立場も採択しました。これは、CBAM証書の収益の25%を財源とし、輸出市場で残存する炭素リーケージリスクに直面する炭素集約型セクターのEU事業者および川下事業者に対し、2027年から2029年にかけて資金支援を提供するものです。複数の管轄区域にまたがるサプライチェーンを構築している企業様は、これらの規定が採択された場合のコンプライアンスへの影響を評価していただく必要があります。
さらに、EU CBAMが電力を含む6セクターを対象としているのに対し、英国CBAMは5セクターにとどまり、電力を明確に除外しています。これにより、英国や第三国からEUへの電力輸入にはEU CBAMの義務が課されますが、英国にはこれに相当するものがありません。
実務上、提案されている川下分野への対象拡大は英国の製造業者にとって不利に働く可能性があります。英国の機械輸出業者は、EUへ販売する機械に組み込まれた鉄鋼やアルミニウムに対してEU CBAMのコストに直面する一方、英国に輸入される競合製品には同等の負担が課されないためです。2025年11月のEU理事会の承認を経て2026年1月に正式交渉が開始されたUK-EU間のETS連携が締結されれば、二国間貿易における二重課税は解消されます。しかし、製品リストが統一されるわけでも、英国に入ってくる第三国の川下製品に適用が及ぶわけでもありません。第2回UK-EU首脳会議が延期され日程が未定の状況において、企業様におかれましては、完全な納税義務を前提として計画を立て、免除が得られればプラス要因とみなして対処いただくことが安全といえます。
1月に向けて推奨される対応
英国CBAMの対象になるかを評価されている企業様には、以下の対応をご検討いただくことをお勧めいたします。
- 分類主導のデータレビューの実行:税関申告と調達記録を照合し、納税義務のある輸入者を特定します。商品コードを対象リストと照らし合わせ、過去および将来の予測に基づいて5万ポンドの基準テストを適用します。
- サプライヤーとの早期連携:通常、第三国のサプライヤーが検証可能なレベルの排出量データを作成するには2~3回のサイクルを要するため、年末を待たずに早期に着手することが重要です。
- 契約におけるリスクの明確化:価格条項にはCBAMコストが含まれているかを明記することが推奨されます。また、長期契約においては法令変更時の権利や契約解除権を規定することが望ましいといえます。さらに、検証済み排出量データの取得コストの負担者、サプライヤーの排出量報告に対する監査および記録アクセス権、サプライヤーのデータ不備に起因するHMRCの罰金に対する補償、実際の数値の代わりにデフォルト値が使用される場合のコストリスクの割り当ても、契約内で整理しておくことが重要です。
- 検証チェーンの確保:関連する各施設が2026年または2027年の暦年における排出量をすでにモニタリングしていること、またその検証機関が貴社のビジネスから独立しており、該当するCBAM製品の種類の認定を受けていることを確認します。検証報告書は輸入者ではなく施設の運営者に交付されるため、供給条件のなかに、申告に間に合うように報告書または製品固有の検証サマリーを引き渡すという明示的な義務を盛り込んでおくことが求められます。
より広い視点として、CBAMはより厳格化が進む英国の炭素政策の枠組みの一部であることをご留意いただくことが重要です。2033年から2037年の予算期間から、英国の炭素会計には国際航空および海運からの排出が含まれます。また、「2008年気候変動法(クレジット上限)2026年命令」により、2028年から2032年までのカーボンクレジットの上限はゼロに設定され、国内目標に対する国際オフセットの利用は排除されました。こうした政策の方向性は、CBAMへの対応を一過性の作業ではなく「構造的な優先事項」として組み込むことの重要性を示唆しています。
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