PHast Track: Legal Insights on Environment, Energy and Infrastructure
低まる期待の中、COP30における炭素市場の進展は 限定的なものに留まる
December 11, 2025
By Ruth Knox,Brian D. Israeland Jacqueline Hill
気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)は、過去のいくつかのCOPと比較して低い期待の中で開催されました。米国の公式代表団の出席がなく、2015年のパリ協定のルールブックもすでに完成している中、今回のCOP30の焦点は過去のコミットメントの「実施」に当てられました。
事前の予測通り、ブラジルのベレンで開催された本会議では、画期的な新しい決定は下されませんでした。COP30の主要な議題には、国が決定する貢献(NDC)の改訂、森林保全、開発途上国の気候変動適応に向けた資金支援、そしてカーボンプライシング(炭素の価格付け)が含まれました。炭素市場に関する進展は、これまでの決定を補完するものに留まりました。
国が決定する貢献(NDC:Nationally Determined Contributions)
COPの主な目的は、パリ協定の実施を監督することです。同協定は、「世界の平均気温上昇を産業革命以前の水準から2°Cを十分に下回る水準に抑え、気候変動のリスクと影響を大幅に軽減することを見据えて1.5°Cに抑えるための努力を追求する」ことを目的としています。この目標を達成するための中核的なツールが、各締約国に対し、世界の気温上昇をパリ協定の制限内に抑えるために、指定された年までに自国の温室効果ガス排出量をどれだけ削除するかを定義した「国が決定する貢献(NDC)」を個別に作成し、継続的に報告することを義務付ける制度です。NDCは5年ごとに提出する必要があり、COP30の終了時点で、195カ国中122カ国が更新されたNDCを提出しています。
では、世界最大の温室効果ガス排出国は、最新のNDCでどのような公約を掲げているのでしょうか。中国は2035年までに2005年比で10%の排出削減を約束しました。EUは「2035年までに1990年比で66.25%から72.5%の温室効果ガス純排出量の削減に貢献する」という指標を示しました。一方、米国については、トランプ大統領就任の1カ月前にバイデン政権が「2035年までに温室効果ガス排出量を2005年比で61-66%削減する」との公約を発表していました。しかし、米国は現在パリ協定からの離脱手続を進めており、2026年1月27日に離脱が発効する予定であるため、この公約は実質的に無効となっています。
グローバル・ストックテイク(GST:Global Stocktake)
グローバル・ストイックテイク(GST)は、パリ協定の目標達成に向けた各国の進捗状況を評価し、世界的な取組みと実際の排出削減量との間のギャップを測定することで、次期NDCの策定に役立てるために設けられた仕組みです。GSTは5年ごとに実施され、2023年のCOP28で第1回の評価が完了しました。この2023年のGSTの結果が、今回のCOP30に向けて提出されたNDCの基盤となっています。
国連環境計画(UNEP)が発行した「排出ギャップ報告書2025:目標未達(Off Target)」におけるGSTの所見によれば、2035年に向けたNDCのコミットメント(2025年9月30日締切分)に基づくと、世界の気温は2.3-2.8°C上昇すると予測されており、締約国は2030年の排出削減目標を達成できる軌道に乗っていません。2035年に向けて提出されたNDCがもたらす排出削減効果は、2019年比でわずか12-15%に過ぎません。UNEPによれば、気温上昇を1.5°Cに抑えるためには35-55%の削減が必要です。その結果、UNEPは、世界の平均気温がこの10年で少なくとも1.5°C上昇すると予測しています。
COP30の主な成果
NDCとは別に、COP30の目玉となった文書は、「グローバル・ムティロン:気候変動に対する世界的な動員に向けた人類の結束」です。これは、開発途上国への支援の提供に焦点を当てた今回のCOPの姿勢を反映したものです。法的拘束力のないこの文書は、パリ協定の締約国やその他のステークホルダーに対し、本イニシアチブを支援するよう促しています。具体的には、開発途上国の気候適応に向けた資金を2035年までに官民合わせて年間1.3兆ドル規模に拡大し、そのうち少なくとも年間3,000億ドルを先進国が主導して拠出するというCOP29でのコミットメントを実現するための行動を早急に進めることなどが含まれています。また、資金提供の具体的な方法を定めるための2年間の作業計画も盛り込まれました。
COP30では、「ベレン行動メカニズム」が立ち上げられ、技術支援、能力構築、知識の共有、さらには労働者の権利問題への取組みを含むイニシアチブが開始されました。
交渉による合意に加えて、「行動アジェンダ」の枠組みの下、COP30では以下の自発的なコミットメントも発表されました。
- 「熱帯林フォーエバー・イニシアチブ(Tropical Forests Forever Initiative)」が発足し、森林保護を行う国々に対して総額250億ドルの資金を提供することが誓約されました。この資金の少なくとも20%は先住民に割り当てられます。現在、53の参加国から55億ドルの資金が集まっています。
- 「森林と土地の保有権に関する誓約(Forest and Land Tenure Pledge)」が更新され、サバンナ、マングローブ、エコシステムを保護するために18億ドルの資金拠出が約束されました。
- ブラジルとインドネシアの土地における先住民の権利を確認するため、「政府間土地保有権コミットメント(Intergovernmental Land Tenure Commitment)」が立ち上げられました。
- 「ブルーNDCチャレンジ(Blue NDC Challenge)」の参加国が拡大し、海洋における気候変動対策の実施を約束する6カ国が新たに加わりました。
化石燃料
COP30に向けて非常に議論を呼んだ課題は、化石燃料からの脱却に向けたロードマップをいかに作成するかという点でした。EUはCOP28において、対策が講じられていない化石燃料と化石燃料補助金の段階的廃止を世界的に呼びかけました。その結果、「1.5°C経路に沿った、温室効果ガス排出量の大幅かつ迅速で持続的な削減の必要性」が認識され、「締約国に対し、各国の国情、経路、アプローチを考慮しつつ、各国が決定する方法で、以下の世界的な取組みに貢献するよう求める:(d)科学に基づき、2050年までにネットゼロを達成できるよう、この決定的な10年において行動を加速させながら、公正で秩序ある衡平な方法で、エネルギーシステムにおける化石燃料からの移行を進めること」という合意や、再生可能エネルギーを3倍にするというコミットメントにつながりました。
COP30では、EU加盟国や英国を含む80カ国以上がこの流れを引き継ぎ、化石燃料からの移行に関する決定を盛り込もうと試みましたが、この点に関する交渉は決裂寸前となりました。「化石燃料」という言葉さえ、最終的なテキストには記載されませんでした。「グローバル実施アクセラレータ(Global Implementation Accelerator)」のパラグラフ9に盛り込まれた最終的な文言は、締約国会議が「温室効果ガスの低排出および気候変動に強い開発に向けた世界的な移行は不可逆であり、将来の傾向であると認識する」というものに留まりました。COP30の議長を務めたアンドレ・コヘア・ド・ラゴ(Andre Correa do Lago)氏は、産油国や国際機関との議論を通じて、COPのプロセスから離れた形で化石燃料からの脱却ロードマップを作成することを約束しました。2026年4月にコロンビアで開催予定の「化石燃料からの公正な移行に関する第1回国際会議」での進展が期待されています。
炭素市場
炭素市場を強化するためのいくつかのイニシアチブにもかかわらず、今回のCOPでは、パリ協定に基づく炭素市場ツールに関して大きな成果は得られませんでした。
パリ協定の第6条第2項は、締約国がNDCを達成するために「国際的に移転された緩和成果(ITMOs)」を利用した協力的アプローチを用いることを認める一方で、「特に二重計上の回避を確実にするための、締約国会議が採択したガイダンスと整合的な堅牢な算定」を規定しています。ITMOsには、NDCの達成に向けた緩和成果や、CORSIA(国際民間航空のためのカーボンオフセット及び削減スキーム)のような国際的なコンプライアンス制度など、その他の国際的な緩和目的のための成果が含まれます。ITMOsは民間セクターの参加者も購入することができます。
第6条第2項の下で約100件の二国間協定が署名されているものの、多くの国で第6条第2項に基づく取引を実施するための制度的な準備が整っていないため、実際に成立したITMO取引はごくわずかであることが強調されました。2026年のCOP31に対し、第6条第2項の運用支援に向けた資金調達の提案を検討し、勧告するよう要請することが決定されました。
また、中央集権的算定・報告プラットフォーム(CARP)に提出された第6条第2条に基づく報告書に関して、技術的な報告や算定の不整合についての懸念が提起されました。CARPは、ITMOsのNDCまたはその他の国際的な緩和目的への使用承認、およびその初回移転、取得、保有、取消しに関する締約国からの年次報告を受けつけるための国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のプラットフォームです。既存のガイダンスが確認され、報告書の精査が行われるとともに、各国がペナルティを受けることなく経験を共有できるよう、COP31に向けてさらなる対話が計画されています。
パリ協定第6条第4条(しばしば「パリ協定クレジットメカニズム(PACM)」と呼ばれます)は、ある国の企業が自国政府を通じて炭素プロジェクトを登録し、他国、他企業または個人にクレジットを販売し、それが購入者の国のNDCに利用できるような、国連主導の枠組みを提供しています。監督機関は、方法論の開発・承認および第6条第4項登録簿の設立・監督を担います。今年、監督機関によって最初の方法論(埋立地からのメタン排出管理に関するもの)が承認されました。PACMクレジットは監督機関の承認を受ける必要があり、ホスト国と監督機関の双方から承認されたものは「第6条第4項排出削減量(ERs)」と呼ばれます。どちらの制度もUNFCCCの管轄下にあることから、このERsは、一般的に京都議定書におけるクリーン開発メカニズム(CDM)に相当するものとみなされています。なお、PACMは既存のCDMクレジットの移行先となる制度でもあります。京都議定書との主な違いは、PACMの下ではERsの二重計上が禁止されており、ERsの5%を適応基金(Adaptation Fund)に拠出しなければならない点です。
COP30では、2026年から2027年にかけての第6条第4項の能力構築を支援するため、2,680万ドルの追加資金が確保され、さらに500万ドルの資金提供が見込まれています。この資金は、開発途上国が制度枠組み、登録簿、MRV(測定・報告・検証)システムを構築するのを支援することを目的としています。また、CDMプロジェクトが新制度へ移行できる期限を、当初の2025年12月31日からさらに6ヶ月延長する決定が下されました。この措置により、数億トン規模の追加的なCDMクレジットがパリ協定の枠組みに移行する可能性があります。CDMの方法論は6年以上にわたって機能停止状態にあり、いくつかのCDMの方法論は信頼性を失っています。
コンプライアンス炭素市場の調和を図る取組みとしてCOP30の期間中、EU加盟国、英国、中国を含む18カ国の支援を受け、「コンプライアンス炭素市場のためのオープン連盟(Open Coalition for Compliance Carbon Markets)」が発足しました。この連盟は、カーボンプライシングのメカニズムに関する理解と協力を深め、MRVシステム、算定方法論および高品位なオフセットに関する透明性を促進することを目指しています。
さらに、「炭素市場成長連盟(Coalition to Grow Carbon Markets)」は、COP30において「企業およびその他の購入者による炭素クレジットの高品位な利用を拡大するための共通原則(Shared Principles for Growing High-Integrity Use of Carbon Credits by Companies and Other Buyers)」を発表します。この原則は、企業が炭素クレジットを信頼できる形で利用するためのベンチマークを設定し、第6条とボランタリーカーボン市場(VCM:Voluntary Carbon Markets)との間の連携を生み出すものです。同原則は、WBCSD、ICC、世界銀行、IETAなど、複数の主要機関によって策定されました。この連盟は、脱炭素化計画の一環として炭素クレジットを自主的に利用するためのベストプラクティスに関するガイダンスを確立したVCMIを事務局として支援を受けています。その目的は、高品位な炭素市場を支援することで、気候ファイナンスにおいて年間500億ドルの資金を解放することにあります。連盟は現在、英国、フランス、カナダ、シンガポール、ケニア、パナマ、ペルー、ザンビア、ニュージーランド、スイスで構成されており、積極的に参加国の拡大を図っています。
炭素市場に関して最後に留意すべき点は、EUが自国の炭素国境調整措置(CBAM)を保護主義的な貿易措置であると批判する複数の開発途上国からの圧力にさらされたことです。カーボンプライシングを導入している、または導入を進めている国々は、そのような措置の対象となっていない安価な輸入品から国内産業を保護するために、同様の措置を導入する必要性を認識するでしょう。このような貿易に関する議論を避けようとする姿勢は、NDCの公約達成のために高品質な国際クレジットを利用するというEUの発表後においても、EUに国際クレジットの受け入れを求める取引の機運を抑制することになるでしょう。
COPの今後の展望
すべてのCOPで目に見える進展が得られるわけではありませんが、今回のCOPにおける明白な行動の欠如を否定することは困難です。
炭素市場については、第6条第2項および第6条第4項を運用するための開発途上国への資金支援に一定の注目が集まりましたが、これらのツールを支えるインフラは依然として発展途上の段階にあります。「コンプライアンス炭素市場のためのオープン連盟」の設立や、「企業およびその他の購入者による炭素クレジットの高品位な利用を拡大するための共通原則」の発表により、カーボンプライシング・メカニズムの理解と普及が進み、自主的な購入者の信頼が高まる可能性があります。しかしながら、ボランタリーカーボン市場インテグリティ協議会(ICVCM)による「コアカーボン原則(CCP)インテグリティ・フレームワーク」の導入といった過去のイニシアチブは期待されたほどの効果をもたらしておらず、今回の「共通原則」も非常に抽象的な内容に留まっています。
COPにとっての真の課題は、いかなる合意もコンセンサス(全会一致)でなされなければならないという点にあります。つまり、どの国家主体であっても提案を拒否することが可能であり、すべての立場に配慮しようとするあまり、最も妥協的な内容(最大公約数)に落ち着く傾向を生み出しかねません。この問題を解決するため、投票制度の導入や、非国家主体が関与する形でCOPプロセスの外での作業を増やすといった提案が浮上しています。
これとは別に、近年の気候変動に関する法学の動向が、非国家主体の行動を促進する可能性があります。国際司法裁判所(ICJ)は7月23日、全会一致で勧告的意見を出し、パリ協定の締約国には、同協定の気温制限の達成に向けて「適切な貢献」を果たし得るNDCを作成、伝達および維持する法的義務があるとの判断を下しました。ICJは、違法行為とは排出そのものではなく、化石燃料企業を含む民間主体を国家が規制しなかった不作為にあることを明確にしました。ICJの決定に法的拘束力はありませんが、国家責任に関する基礎的な理解を確立するものであり、今後の国家の意思決定やさらなる訴訟の指針となる可能性があります。
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