The Buyer's Playbook: Legal Insights Into M&A
2026年のM&Aを形作る主要な法務トレンド
June 09, 2026
By Matthew Poxon,David Prowseand Matthew Calvert
比較的減速していた時期を経て、グローバルなM&A活動は回復の兆しを見せてい ます。資金調達市場はより建設的になり、金利予測も安定し、プライベート・エ クイティ(PE)スポンサーと一般企業はともに、投資活動を再開しつつあります。
しかし、ディールが実行される環境は変化しました。こうした市場環境の変化を 受け、当事務所は新たな連載シリーズ「The Buyer’s Playbook」をスタートしま す。本シリーズでは、M&Aにおける買い手にとって最も重要となる法務上の留意 点について、実践的なインサイトをお届けします。本シリーズでは、初期デュー デリジェンスから、署名、クロージング、そしてクロージング後のリスク配分に 至るまで、買い手の視点から取引のタイムラインを検証します。各記事は、買い 手がより自信をもって取引を実施できるよう支援することを目的とし、複雑なク ロスボーダー案件に関する私たちのアドバイザリー経験に基づき構成されていま す。
本導入記事では、英国のM&Aを形作る5つの主要トレンドと、それらが実際のデ ィールにどのような影響を与えているかに焦点を当てます。
1. 実行リスク
近年における最も顕著な動向の1つは、契約署名から完了までの間に生じるエグゼ キューション・リスクへの注目の高まりです。この期間は、もはや単なる形式的な 手続きとしては扱われていません。
規制当局の承認、資金調達の条件、そしてディール全体の複雑化により、スケジ ュールが長期化し、不確実性が生じる可能性があります。特に企業結合審査や国 家安全保障に基づく審査には数カ月を要することがあり、ディールの計画に重大 な影響を及ぼす可能性があります。
よって、買い手はクロージング前提条件(CP)、ロングストップ・デート(最終 期限)、クロージング前の誓約事項、および契約解除権をより慎重に検討するよ うになっています。また、過去の英国のM&Aにおいて実際に発動されたケースが 稀であった「MAC(重大な悪影響)条項」も、改めて注目を集めています。
これらの課題については、今後の記事「署名から完了まで:エグゼキューショ ン・リスクの管理」にてさらに詳しく掘り下げます。
2. バリュエーション・ギャップ
市場の動きは活発化しているものの、買い手と売り手の間の企業価値評価の期待 値が常に一致するわけではありません。多くの売り手が依然として好況時の水準 に基づいて価格設定を行う一方、買い手は資金調達コストの上昇、マクロ経済の 不確実性、より慎重な成長見通しを織り込んでいます。
このようなミスマッチが直ちに取引の妨げになるわけではありませんが、取引の ストラクチャーを変える要因となります。
当事者は取引から降りるのではなく、ギャップを埋 めるためのより創造的な解決策を求めるようになっ ています。私たちの経験上、価格の一部を将来の業 績に連動させるアーンアウトや繰延対価(ディファ ード・コンシデレーション)が一般化しつつありま す。欧州のPE取引の30~40%には、アーンアウトま たは繰延対価の要素が含まれていると推定されてい ます。
PE取引において、ロールオーバー・エクイティ(株 式の継続保有)などの経営陣へのインセンティブ付 与は、依然として利害を一致させ、バリュエーショ ンの期待値を管理するための主要なツールです。
同時に、従来の価格決定メカニズムに対する精査も 厳しくなっています。競争入札プロセスでは、引き 続きロックド・ボックス方式が好まれますが、買い 手はリーケージ(価値の社外流出)条項、運転資本 の前提条件、有利子負債類似項目(デット・ライ ク・アイテム)の扱いに一層の注意を払っています。 これらの条項の細部が企業価値に重要な影響を与え る可能性があります。
買い手にとって重要なのは、バリュエーションを単 一の「見出し価格(ヘッドライン・プライス)」と して扱わないことです。価値は、アーンアウト、繰 延対価、ロールオーバー・エクイティ、リーケージ 保護、有利子負債類似項目、運転資本目標、ロック ド・ボックス金利、クロージング勘定方式などを通 じて変動し得ます。
これらの課題については、今後の記事「価値はどこ へ動くのか:価格調整メカニズム」にて詳しく掘り 下げます。
3. デューデリジェンス
デューデリジェンスに対するアプローチも進化してい ます。買い手が利用できる情報量は大幅に増加したも のの、それらを分析するための時間は増えていません。
こうした背景から、買い手は「すべてを洗い出す」よ うな網羅的なデューデリジェンスから、より焦点を絞 ったリスクベースのアプローチへと移行しています。
実際には、これは価値やディールの実行に最も影響を 与えそうな問題を優先することを意味します。買い手 はベンダー・デューデリジェンス(VDD)への依存度 を高めており、市場データによると、中規模から大規 模なPEエグジットの大半でVDDが利用されています。 また、大量データをより効率的に管理・検証する上で、 テクノロジーが果たす役割もますます重要になってい ます。
デューデリジェンスは、もはや「あらゆる可能なリス クを特定すること」ではありません。「重要なリスク を特定し、それにどう対処するかを理解すること」へ と変化しています。
しかし、適切なバランスを取ることが不可欠です。過 剰な調査はプロセスを遅延させコストを増加させます が、不十分な調査は価格設定の誤りや後々のサプライ ズにつながるおそれがあります。そして、デューデリ ジェンスでの発見事項は、それが商業的な取引条件に 反映されて初めて意味を持ちます。
これらの課題については、本シリーズの第1回「法務 デューデリジェンス:本当に重要なこと」にて詳し く掘り下げます。
4. マイノリティ出資とジョイント・ベンチ ャー
もう一つの注目すべきトレンドは、マイノリティ出 資やジョイント・ベンチャー(JV)の活用増加です。 完全な支配権の獲得が常に可能、または望ましいと は限られない市場において、買い手と売り手はより 柔軟な所有モデルを採用する姿勢を強めています。
このトレンドの背景には、複数の要因が複合的に絡 み合っています。具体的には、ダウンサイド・リス クを抑えながら成長機会を取り込み、ポートフォリ オの分散を図りたいという「買い手側の意向」に加 え、資金調査コストの上昇やエグジット環境の悪化 といった「市場の制約」が挙げられます。さらに、 自社の事業に引き続き関与したいという創業者や 「売り手企業側の要望」も相まって、こうした柔軟 なストラクチャーの採用を後押ししています。
その結果、完全な支配権の取得ではなく、共同所有 を前提とした取引が増加しています。マイノリティ 持分の取得、ジョイント・ベンチャー、その他の共 同投資のスキームが一般化しています。
こうしたストラクチャーには、異なる法務的アプロ ーチが必要です。支配権を持たない買い手は、ガバ ナンス権、情報請求権、重要事項の拒否権(リザー ブド・マター)、譲渡制限、希薄化防止条項、エグ ジット権、デッドロック解決メカニズムを通じて価 値を保護しなければなりません。そのため、法的な 枠組みはビジネス面の合意に単に付随するものでは なく、買い手がディールの価値を保全するための重 要なメカニズムそのものとして機能します。
これらの課題については、「マイノリティ出資とジ ョイント・ベンチャーのナビゲート」にて詳しく掘 り下げます。
5. 経営不振企業のM&A
M&Aの幅広い回復と並行して、市場の一部では、正 式な倒産手続きを回避し、事業の継続や既存債権者 の価値実現を目指してリファイナンスや新規資金調 達を模索する企業が増加しており、経営不振の兆候 が顕著に表れています。
ディストレスM&A活動は、足元の「債務の満期の壁(maturity wall)」に大きく起因して、持続的な増加 をみせています。パンデミック中のゼロ近辺の金利 と前例のない財政出動は、レバレッジド・バイアウ ト(LBO)活動の大幅な増加を煽りました。その期 間に生じた負債の多くが現在満期を迎えており、 2024年から2026年末までの間に約2兆ドルの企業債 務が返済期限を迎えると推定されています。
買い手にとって、これらは新たな機会をもたらします。 しかし、それらの機会は従来とは異なるリスクプロファ イルを伴います。
ディストレス取引は多くの場合、スケジュールの圧縮、 情報アクセスの制限、そして高いエグゼキューション・ リスクによって特徴づけられます。特に倒産のシナリオ ではプロセスが加速化する可能性があり、買い手はすべ ての情報が揃わない中で決断を下すことを迫られる場合 があります。
同時に、法的および構造的な考慮事項はさらに複雑化す る可能性があります。所有権の所在、負債の移転、ステ ークホルダー間の調整に関する問題がより深刻になり、 クロージング後のリコース(補償や損害賠償請求)の余 地が少なくなることが多々あります。
これらの課題にもかかわらず、ディストレスM&Aは特定 の投資家、特に迅速に行動できる能力を持つ投資家にと って依然として魅力的な領域です。鍵となるのは、価格、 スピード、確実性、そしてリコースの間のトレードオフ を理解することです。
これらの課題については「ディストレスM&A:バイヤー ズ・ガイド」にて詳しく掘り下げます。
おわりに
グローバルなM&A市場は活況を取り戻しつつありますが、 そのランドスケープは変化しています。上記で概説した 各トレンドを通じて、一貫したテーマが浮かび上がって きます。それは「買い手は、より複雑でプレッシャーの かかる環境下でディールを進めている」ということです。
「The Buyer’s Playbook」は、これらの課題を乗り越え るための実践的なガイダンスを提供します。各記事では、 複雑なクロスボーダー案件に関する私たちのアドバイザ リー経験に基づき、ディールプロセスの特定の側面につ いてより詳細に探求していきます。
今後のシリーズでさらに多くのインサイトを共有できる ことを楽しみにしています。
免責事項
「M&A Insights:The Buyer’s Playbook」はPaul Hastings LLPのクライアントおよび関係者の皆様への情報提供のみを目的として発行さ れたものであり、いかなる場合においても法的アドバイスとして依拠、あるいは解釈されるべきではりません。本資料に示された見解は執 筆者個人のものであり、必ずしもPaul Hastings LLPとしての見解を反映するものではありません。最新の動向や個別の事実関係に基づく具 体的な情報については、専門の弁護士にご相談ください。一部の管轄法域においては、本資料は「弁護士広告」とみなされる場合がありま す。Paul Hastings LLPは有限責任事業組合です。
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